応用生態工学
Online ISSN : 1882-5974
Print ISSN : 1344-3755
ISSN-L : 1344-3755
18 巻, 1 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
特集:河床の見方―水理学と生態学,河川中上流域を中心として―
序文
総説
  • 原田 守啓, 萱場 祐一
    2015 年18 巻1 号 p. 3-18
    発行日: 2015/06/28
    公開日: 2015/09/04
    ジャーナル フリー
    本論は,河床を構成する材料の粒径の幅が広く,河川地形や河床環境に平面的な多様性が見られる河川中上流域を対象とし,主に河床環境の物理特性に関わる既往の知見の整理を試みた.まず第 1 に,河床を構成する土砂の物理特性と指標について,工学と生態学の両分野における一般的な取扱いとその課題を確認し,粒度分布に粒径集団の概念を適用することの有効性を指摘した.第 2 に,土砂水理学における知見の整理を試みた.河床の流水抵抗,流れの特徴について解説するとともに,河川地形の骨格となる河床形態,河床環境の時空間分布の多様性の基となる分級現象に着目する重要性を指摘した.第 3 に,河床環境の評価に関する研究動向についてレビューし,河床環境の評価指標は,生息場としての質や機能と,物理特性との対応が明らかであることが望ましいことを指摘した.これらを通じて,河床環境に関する調査研究における課題を明らかにするとともに,今後期待される取組みの方向性を示した.
  • 永山 滋也, 原田 守啓, 萱場 祐一
    2015 年18 巻1 号 p. 19-33
    発行日: 2015/06/28
    公開日: 2015/09/04
    ジャーナル フリー
    本論では,これまで世界および日本で行われてきた河川地形と生息場の分類体系について,特に「空間スケール」と「流程」に着目して体系的な整理を行い,課題を抽出するとともに,流程全体に適用するための検討および提案を行った. セグメントスケール(流路幅の103~104 倍)の分類体系は流程全体を網羅していたが,縦断的に大きく変化する山地河川の河道特性を表現するには不十分であった.しかし,この課題は,山地河川で確立されたリーチスケールの分類体系を活用し,小セグメントに区分することで解決できると考えられた. リーチ(流路幅の101~102 倍)と流路単位スケール(流路幅の100~101 倍)における分類体系は,国外において,3 次以下の山地河川を主な対象として確立されていた.これらの分類体系は,国内で行われた先駆的な分類体系をカバーしていた.また,これらの分類体系は,峡谷,谷底平野,臨海沖積平野を流れる 4 次以上の河川にも適用できると考えられた. 流路単位内のパッチであるサブユニット(流路幅の10-1 ~100 倍)は,対象とする生物,環境,調査の目的等によって無数に分類可能である.しかし,地形や平面流況に着目することで,普遍的なサブユニットタイプを見出すことは可能であり,特に流路幅の大きな沖積大河川では,それが生物の生息場利用を把握する上で,重要な空間単位であると考えられた. 空間スケールごとの河川地形の分類を適用することで,対象河道の物理的,生態的な特徴を把握することができるようになる.これを関係者間で共有することにより,円滑な議論,適切な決定ができるようになり,効果的かつ効率的な河川管理につながると考えられる.
事例紹介
  • Takashi TASHIRO, Tetsuro TSUJIMOTO
    2015 年18 巻1 号 p. 35-45
    発行日: 2015/06/28
    公開日: 2015/09/04
    ジャーナル フリー
    本研究では, 流域地質が河川の底生動物群集に及ぼす影響を解明することを目的とした. 流域地質の異なる櫛田川流域の山地河川を対象に, 瀬・淵において河床堆積物を採取し, 河床材料と底生動物を分析したところ, 以下のような成果が得られた. 流域地質と河床材料の関係に関し, 瀬の大礫については, 流程における違いは顕著でないが河川間で扁平度・密度が大きく異なり, その河川の上流域に存在する結晶片岩 (三波川帯変成岩) や未固結堆積物 (朝柄川) によるところが大きかった. 一方, 淵の砂礫の粒度分布については, 上流域が秩父帯の堆積岩類の場合, 三波川帯を流れる相津川, 領家帯を流れる仁柿川よりも相対的に粗かった. 三波川帯を流れる相津川では, 脆く扁平な形状の材料とそれらの折り重なった狭小な河床間隙空間により, 携巣型や匍匐型昆虫などの生息が阻害され, (特に淵において)生息密度や種の豊富さが相対的に小さくなった. ただし, 瀬では固着型のウスバガガンボ属の一種, 淵では平たい体型で流されにくいタニガワカゲロウ属のオニヒメタニガワカゲロウなどが多く生息した. 秩父帯の蓮川や領家帯・三波川帯に跨って流れる月出川では, 多様な起源の材料から多様な河床間隙空間が形成され, 間隙をより立体的に利用する遊泳型昆虫が多くなることなどにより, 総個体数密度や種の豊富さが大きくなり, 相対的に豊かな底生動物相が成立した. 領家帯を流れる仁柿川では, 丸い玉石状の大礫と細粒な真砂の影響により河床間隙が埋没し易いため, 匍匐型昆虫の生息が阻害される一方, 細粒分で営巣して礫表面を這いまわる携巣型昆虫は多くなった. 瀬・淵ともに個体数密度は小さかったが, 砂底を利用するフタスジモンカゲロウやキイロカワカゲロウなどにより, 淵での種の豊富さは多い傾向にあった.
意見
原著論文
  • 中川 光, 三品 達平, 竹門 康弘
    2015 年18 巻1 号 p. 53-63
    発行日: 2015/06/28
    公開日: 2015/09/04
    ジャーナル フリー
    近年の京都府鴨川では, 天然アユの溯上が観察されるようになったが, 多くの落差工や堰堤がアユの溯上を妨げていることから, 仮設魚道による改善が試みられている. 本研究では, 鴨川の中下流部におけるアユの流程分布の現状を明らかにするために, 水中目視観察による調査をおこなった. また, 夏期には下流部の水温環境がアユの成育に適さない高水温となることから, その影響を把握するために, アユの生息場所利用状況, 摂餌行動, ならびに栄養状態の調査を行った. その結果, 天然遡上と考えられるアユは鴨川の最下流から約 15 km 上流まで観察され, 水温がアユの生息適温を大幅に超える下流部でも多くのアユが生息していることがわかった. 鴨川下流部では, 朝方に平瀬の流心で摂餌をしていたアユが昼間には湧水のある砂州尻ワンドに集合している現象が観察された. また, 下流部では午後の高水温時に胃内容物量が少なかったことから, 摂餌時間も中流部に比べて短いと推察された. さらに, 下流部のアユについては中流部よりも小さい個体の割合が高く, 大型個体では, 中流部の同サイズのものに比べて栄養状態が悪い傾向が見られた. これらの結果から, 鴨川下流部のアユは, 夏の高水温期に湧水が溜まる淵やワンドへ避難することで生息できているものの, その成長は中流部まで遡上できた個体に劣り, 河道の分断化がアユの生産性を低下させていると考えられる. したがって, 鴨川の天然アユ個体群を保全するためには, 上流への溯上を容易にする堰の切り欠きや魚道の設置などの対策とともに, 溯上できない個体の生存のために地下水の涵養や伏流水の湧出するワンド環境を保全する対策が必要である.
書評
feedback
Top