応用生態工学
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事例研究
河川での低濃度濁水の発生に対するアユの反応事例:野外における河川区間スケールでの実験
加藤 康充小野田 幸生森 照貴萱場 祐一
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2015 年 18 巻 2 号 p. 155-164

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抄録
河川に生息する魚類は,濁水による様々な負の影響を受けることが知られている.そのため,濁水による影響を回避するために忌避行動をとり,濁水の発生に伴い広域的にいなくなる可能性が指摘されている.そこで,本研究ではアユを対象に,低濃度の濁水が河川区間(区間長 700 m)からの移出を引き起こすか否かについて実験河川を用いて検証した. 同じ形状の実験河川 2 本の内,一方は濁水を発生させる濁水区とし(継続時間:2.5 時間;最大浮遊物質濃度:上流部 168.2 mg/L,下流部 27.2 mg/L),もう一方は何もしない清水区(同:上流部 4.8 mg/L,下流部 3.7 mg/L)とした.濁水区と清水区の下流端は終末池を経由して繋がっており,アユは両区間を往来することが可能である.濁水の発生前後におけるアユの経時的な行動様式を把握するためにテレメトリー法を用い,アユの移動状況を追跡した. 濁水発生前に濁水区と清水区にそれぞれ 8 個体と 6 個体のアユを放流した.濁水発生により,濁水区から清水区へと明確に移動した個体は確認されなかった.また,濁水区と清水区のそれぞれの下流部でアユの移動を連続的に観測した結果,2 個体が河川間を往来していたことが検出された.どちらも当初は清水区にいた個体で,一方は濁水発生直後に清水区と濁水区を行き来した後に清水区へ戻ったが,もう一方は往来後,濁水区へと移動した.つまり,今回の実験では濁水発生時に清水区と濁水区を往来した個体が見られたものの,濁水に対する明らかな忌避行動(濁水区から清水区への移動)を示した個体は認められなかった. 以上より,今回発生させた程度の短時間(継続時間:2.5 時間)かつ低濃度(最大浮遊物質濃度:約 27 mg/L)の濁水では,長距離移動を伴うアユの忌避行動は生じない可能性が示唆された.ただし,濁水の影響は継続時間とともに強くなることから,今後も,アユに影響を及ぼさない濁水のあり方に関する知見を蓄積していく必要があると考えられる.
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© 2015 応用生態工学会
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