応用生態工学
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18 巻, 2 号
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原著論文
  • 澤邊 久美子, 夏原 由博
    2015 年 18 巻 2 号 p. 69-78
    発行日: 2015/12/28
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    大阪府堺市において,丘陵地から平野部を含む 47 地点の調査地点を設け,本種の営巣調査を行った.草地のパッチスケールの要素(植物高,パッチ面積,草地タイプ,営巣植物被度)と,景観スケールの要素として半径 20,50,100,200,500 m のバッファ内における 5つ(樹林地,空地,水田,畑,草地)の土地利用の面積比率を説明変数とした.本種の生息に影響する要因とそのスケールを明らかにするため,巣の有無を従属変数としたロジスティック回帰分析により,5 つのバッファごとに本種の生息確率を示すモデル選択を総当たり法で行った.営巣調査の結果,47 地点のうち 14 地点で巣を確認した.このうち攪乱が少ない草地タイプと,営巣植物の平均被度が高い草地で巣の確認地点数が有意に多かった.ロジスティック回帰分析の結果,総当たり法により最小 AIC との差が 2 未満のモデルについて検討した.その結果,本種の生息に影響を及ぼす空間スケールは,半径 500 m あるいはそれ以上であること,さらにそこに占める草地と水田の面積が生息に正の影響を及ぼす要素であることが明らかとなった.以上から,本種の生息適地は,行動圏よりも広い半径 500 m 以上のスケールで,草地と水田が多く存在する景観であり,その草地は営巣植物となるイネ科草本が優占する植生を維持するため最小限の攪乱を加え維持管理する必要がある.これらの条件で,小規模な半自然草地において本種の生息適地を把握し保全策を講じることが求められる.
  • 牛見 悠奈, 宮武 優太, 筒井 直昭, 坂本 竜哉, 中田 和義
    2015 年 18 巻 2 号 p. 79-86
    発行日: 2015/12/28
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    北米産外来種のアメリカザリガニは,在来生物の捕食などを通じて,在来生態系に深刻な影響を及ぼしている。 また,本種が掘る巣穴が水田漏水の原因になるなど水田管理上の問題も引き起こしている。このため,本種は緊急対策外来種と日本の侵略的外来種ワースト 100 に指定され,効率的な駆除手法の開発が求められている。 そこで本研究では,水田水域や河川・湖沼等に定着したアメリカザリガニの駆除に用いる人工巣穴の適したサイズを明らかにすることを目的として,本種による人工巣穴サイズ選好性実験を実施した。灰色の直管型の塩ビ管を人工巣穴とし,内径と長さの異なる人工巣穴をアメリカザリガニに室内水槽内で選択させた。その結果,人工巣穴の内径については,全長(X, mm)と好んで選択された内径(Y, mm)の間に Y=0.58X+4.26 という有意な回帰式が得られた。人工巣穴の長さについては,全長の 4 倍の長さの巣穴が好んで選択された。以上の結果をもとに,アメリカザリガニの駆除に用いる体サイズ別の人工巣穴サイズを提案した。
  • 大高 明史, 一柳 英隆
    2015 年 18 巻 2 号 p. 87-98
    発行日: 2015/12/28
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    日本のダム湖における水質環境と深底部で優占する貧毛類の種組成を把握するために,国土交通省が管理する全国 48 の多目的ダム湖を対象に,観測データを集約するとともに,過去の調査で採集された貧毛類標本の再検討を行った.湖水表層で観測された 11 の水質項目のうち,他の項目との有意な関係が最も多く見られたのは全リンであった.透明度から算出したダム湖の修正カールソン富栄養化状態指数は中栄養湖から富栄養湖に相当する 31 から 70 の範囲に分布していた. 調査したダム湖の深底部の大型底生動物群集は貧毛類とユスリカ類が優占し,8 割のダム湖では,貧毛類が群集全体の密度の 9 割以上を占めて,大きく優占した.底生動物の総密度と総現存量は,中栄養段階のダム湖の一部で高い値が見られた.しかし,どちらも,ダム湖の水深や栄養状態との間に有意な関係は見られなかった. 43 のダム湖の深底部から,ミズミミズ科(かつてのイトミミズ科を含む)に属する 16 種の貧毛類が確認された.優占種はユリミミズ Limnodrilus hoffmeisteri とイトミミズ Tubifex tubifex で,調べたダム湖の約半数では,両者が同所的に出現した.ダム湖の深底部の貧毛類群集の密度や構成は,自然湖沼のうち,水深のある程度大きい中栄養湖と類似していた.
  • 田頭 直樹, 國立 将光, 岡野 豊, 谷口 義則
    2015 年 18 巻 2 号 p. 99-114
    発行日: 2015/12/28
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    本研究は,ホトケドジョウの保全のための基礎資料とするため,承水路が付帯設置された谷津田周辺における本種の生息実態を明らかにすることを目的とした.調査対象とした 2 地区(地区 A・B )では,横断工作物による移動阻害の度合いに相違があったが,両地区ともに承水路を中心に本種が生息していた.承水路と水路の連続性が高い地区 A では,周年ホトケドジョウが確認され, 1 月から 6 月にかけて水路から承水路へ移入する個体が確認された.さらに,6 月に成魚および未成魚が承水路に集中して分布していたため,承水路を繁殖場として利用していたと考えられた.地区 B においても承水路に未成魚が多く,重要な生息場となっていた.ただし,水路と承水路間の連続性が低く,冬季に水路から承水路への移入はほとんど確認されず,越冬や繁殖の場として十分利用されていない可能性が示唆された.個体数を応答変数とした調査月及び成魚・未成魚別に作成した生息分布モデルでは,月平均水温,調査地区,水深,水中カバー率が主な説明変数として選定された.生息分布モデルでは,月平均水温に対して,8 月は負の影響を,1 月と 6 月は正の影響を示した.湧水のある承水路は,繁殖場,未成魚の生息場,越冬地として機能することが示唆され た.特に,産卵基質となる落葉落枝や抽水植物等が存在する状況を維持し,移動が活発化する 1 月から 6 月と 8 月から 10 月にかけて,水路との連続性を高めれば,承水路の機能を向上することが可能であると考えられる.
  • 白石 理佳 , 牛見 悠奈, 中田 和義
    2015 年 18 巻 2 号 p. 115-125
    発行日: 2015/12/28
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    在来生態系への影響が問題となっている緊急対策外来種のアメリカザリガニを効率的に捕獲駆除できる篭および篭に用いる餌の種類を明らかにすることを目的とし,岡山市半田山植物園内の池で,篭の種類によるアメリカザリガニの捕獲効率比較実験(実験1)と篭に用いる餌の種類によるアメリカザリガニの捕獲効率比較実験(実験2)を行った.実験1 では,アナゴ篭,カニ篭,エビ篭を用いて,篭の種類別に本種の捕獲個体数を比較した.実験2 では,練り餌,チーズかまぼこ,冷凍ザリガニをエビ篭に用いて,餌の種類別に本種の捕獲個体数を比較した.実験1 の結果,アメリカザリガニはエビ篭で最も多く捕獲された.またエビ篭では,カニ篭とアナゴ篭に比べ,小型個体から大型個体までを含む幅広い体サイズのアメリカザリガニが捕獲された.実験2の結果では,練り餌を用いた場合で捕獲個体数が最大となった.以上,実験1と2 の結果から,アメリカザリガニの駆除を効率的に行うには,練り餌を餌としてエビ篭を用いるのが良いと結論した.
事例研究
  • 藤原 結花, 内田 有紀, 川西 亮太, 井上 幹生
    2015 年 18 巻 2 号 p. 127-137
    発行日: 2015/12/28
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    愛媛県松山市近郊を流れる重信川の中流域には小規模な灌漑用湧水池が多数点在している.これらの湧水池は,水田や河川と用水路でつながっており,重信川周辺における氾濫原水域の代替生息場所として機能してきた可能性がある.しかし近年,水路のコンクリート化等により,その環境は大きく変わりつつある.そのような中,国土交通省による自然再生事業の一環として,重信川の河道近傍において 2006 年と 2007 年に,それぞれ,湧水池(松原泉)と湿地(広瀬霞)の造成がなされた.本報告では,造成直後の 2008 年における,これら 2 つの造成水域の環境特性と魚類群集を,10 個の既存湧水池と比較することにより,魚類の生息場所としての造成水域の特徴を検討した. 樹冠被度,底質,カバー(魚類の隠れ場所),岸辺の状態,および水位の安定性を計測して比較したところ,造成水域の特徴として,松原泉,広瀬霞ともに水位の安定性が高いことが示された.魚類調査の結果,松原泉では 13 種の魚類が確認され,既存湧水池の中でも最も生息魚種が豊富な湧水池の一つであることが示された.広瀬霞では 9 種の魚類が確認され,既存湧水池で見られる主要な生息魚種は移入していることが示された.これらのことより,今回造成された2 つの水域は,魚類にとっては良好な生息場所として機能していると考えられた.ただし,広瀬霞ではオオクチバスの生息が早くも確認され,今後,その管理には注意を払う必要があると考えられた.
  • 牛見 悠奈, 白石 理佳, 中田 和義
    2015 年 18 巻 2 号 p. 139-145
    発行日: 2015/12/28
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    本邦の水田水域や河川・湖沼等に定着している北米産外来種のアメリカザリガニは,在来生態系に与える影響が問題となっており,緊急対策外来種および日本の侵略的外来種ワースト 100 に指定されている.このため,本種の効率的な駆除手法の開発が必要とされている.本研究では,著者らが本種の駆除に用いることを推奨した好適なサイズの人工巣穴(牛見ほか 2015)によるアメリカザリガニの駆除効果について検討するため,内径と長さの異なる好適サイズの人工巣穴を岡山市半田山植物園の2 つの池に設置して本種を捕獲する野外実験を実施した.その結果,実験期間を通じて内径 20~56 mm の人工巣穴でアメリカザリガニが継続的に捕獲され,2 つの池での合計捕獲個体数は 51 個体であった.捕獲されたアメリカザリガニの体サイズは,頭胸甲長では 8 .1~35.7 mm,全長では 22.7~83.4 mm であり,小型個体から大型個体を含む幅広い体サイズのアメリカザリガニが人工巣穴で捕獲された.また,捕獲されたアメリカザリガニには抱稚仔個体 2 個体が含まれ,それぞれ 104 個体および 258 個体の稚ザリガニを抱えていた.したがって,稚ザリガニも含めると,本実験では計 413 個体のアメリカザリガニが捕獲駆除された.以上より,好適なサイズの人工巣穴はアメリカザリガニの駆除に有効であり,抱稚仔個体の捕獲も可能であることが明らかとなった.
  • 海野 徹也, 山本 雅樹, 笹田 直樹, 大原 健一
    2015 年 18 巻 2 号 p. 147-154
    発行日: 2015/12/28
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    江の川で採集された通し回遊魚( 3 科 11 種)の耳石 Sr:Ca 比を分析し,回遊履歴を検証した.耳石 Sr:Ca 比のプロファイルより,河口付近で採集されたチチブは,終始,汽水域を主な生息域としていると考えられた.浜原ダムより下流の中流域で採集されたスミウキゴリ,ゴクラクハゼ,シマヨシノボリ,オオヨシノボリ,カマキリ,カジカ中卵型は回遊型と考えられた.ヌマチチブやウキゴリについては中流で採集された個体は回遊型であったが,浜原ダムより上流で採取された個体は非回遊型であった.浜原ダムより上流への回遊型のヌマチチブ,ウキゴリ,シマヨシノボリ,オオヨシノボリの移動は,同ダムの魚道評価の指標となり得る.トウヨシノボリ(宍道湖型)は浜原ダムより下流の個体にも非回遊型が存在することが明らかとなった.ヌマチチブ,ウキゴリ,トウヨシノボリ(宍道湖型)は,回遊パターンに対して柔軟性を有するとことで環境に適応していると考えられた.
  • 加藤 康充 , 小野田 幸生, 森 照貴, 萱場 祐一
    2015 年 18 巻 2 号 p. 155-164
    発行日: 2015/12/28
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    河川に生息する魚類は,濁水による様々な負の影響を受けることが知られている.そのため,濁水による影響を回避するために忌避行動をとり,濁水の発生に伴い広域的にいなくなる可能性が指摘されている.そこで,本研究ではアユを対象に,低濃度の濁水が河川区間(区間長 700 m)からの移出を引き起こすか否かについて実験河川を用いて検証した. 同じ形状の実験河川 2 本の内,一方は濁水を発生させる濁水区とし(継続時間:2.5 時間;最大浮遊物質濃度:上流部 168.2 mg/L,下流部 27.2 mg/L),もう一方は何もしない清水区(同:上流部 4.8 mg/L,下流部 3.7 mg/L)とした.濁水区と清水区の下流端は終末池を経由して繋がっており,アユは両区間を往来することが可能である.濁水の発生前後におけるアユの経時的な行動様式を把握するためにテレメトリー法を用い,アユの移動状況を追跡した. 濁水発生前に濁水区と清水区にそれぞれ 8 個体と 6 個体のアユを放流した.濁水発生により,濁水区から清水区へと明確に移動した個体は確認されなかった.また,濁水区と清水区のそれぞれの下流部でアユの移動を連続的に観測した結果,2 個体が河川間を往来していたことが検出された.どちらも当初は清水区にいた個体で,一方は濁水発生直後に清水区と濁水区を行き来した後に清水区へ戻ったが,もう一方は往来後,濁水区へと移動した.つまり,今回の実験では濁水発生時に清水区と濁水区を往来した個体が見られたものの,濁水に対する明らかな忌避行動(濁水区から清水区への移動)を示した個体は認められなかった. 以上より,今回発生させた程度の短時間(継続時間:2.5 時間)かつ低濃度(最大浮遊物質濃度:約 27 mg/L)の濁水では,長距離移動を伴うアユの忌避行動は生じない可能性が示唆された.ただし,濁水の影響は継続時間とともに強くなることから,今後も,アユに影響を及ぼさない濁水のあり方に関する知見を蓄積していく必要があると考えられる.
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