抄録
日本のダム湖における水質環境と深底部で優占する貧毛類の種組成を把握するために,国土交通省が管理する全国 48 の多目的ダム湖を対象に,観測データを集約するとともに,過去の調査で採集された貧毛類標本の再検討を行った.湖水表層で観測された 11 の水質項目のうち,他の項目との有意な関係が最も多く見られたのは全リンであった.透明度から算出したダム湖の修正カールソン富栄養化状態指数は中栄養湖から富栄養湖に相当する 31 から 70 の範囲に分布していた. 調査したダム湖の深底部の大型底生動物群集は貧毛類とユスリカ類が優占し,8 割のダム湖では,貧毛類が群集全体の密度の 9 割以上を占めて,大きく優占した.底生動物の総密度と総現存量は,中栄養段階のダム湖の一部で高い値が見られた.しかし,どちらも,ダム湖の水深や栄養状態との間に有意な関係は見られなかった. 43 のダム湖の深底部から,ミズミミズ科(かつてのイトミミズ科を含む)に属する 16 種の貧毛類が確認された.優占種はユリミミズ Limnodrilus hoffmeisteri とイトミミズ Tubifex tubifex で,調べたダム湖の約半数では,両者が同所的に出現した.ダム湖の深底部の貧毛類群集の密度や構成は,自然湖沼のうち,水深のある程度大きい中栄養湖と類似していた.