応用生態工学
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事例研究
河川生態の視覚化に関する展示論的考察―水族館の生息環境展示を事例として―
吉冨 友恭田代 喬
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2017 年 20 巻 1 号 p. 61-72

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抄録

河川は水中の視覚的に捉えにくい多くの要素で構成されている.また,河川生態は複雑かつ動的であり,生息地は微小な空間から広大な空間まで広がりをもっているため,現場において多くのことをとらえることは難しい.それらをわかりやすく表現するためには,河川の生態学的な視点に基づいた展示論が必要とされる.本研究では,水族館の生息環境展示を事例として,河川生態の捉え方と見せ方の展示論について再考した.はじめに,既往の研究にみられる河川の生息環境の類型と,人が河川という対象をとらえようとした際に制限される事項や傾向を整理することにより,展示の視点を見出した.また,質の高い展示を創出するためには,目的とする生息環境を含む典型的な風景を選定し,空間を透過する視点から特徴を踏まえた断面を抽出したうえで,基盤となる微地形の配置や作り込み,エコトーンにみられる水生動物や植生の導入,視線高を軸とした空間構成,対象環境を特徴づける光等を再現することが重要なポイントになることを明らかにした.見る人の視点については,生物と周囲の環境の関係を観察するために,視野と複数の視線高を確保することの重要性を示した.最後に,展示を補完・拡張するために導入される,イラストや映像を素材とするサインやモニター,端末等を使用した情報メディアについて考察することにより,肉眼では捉えることの難しい事象についても空間や時間を拡大・縮小して視覚情報化することができる点において,情報メディアの有効性,応用性を指摘した.

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© 2017 応用生態工学会
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