応用生態工学
Online ISSN : 1882-5974
Print ISSN : 1344-3755
ISSN-L : 1344-3755
20 巻, 1 号
選択された号の論文の21件中1~21を表示しています
原著論文
  • 藤本 泰文, 星 美幸, 神宮字 寛
    2017 年20 巻1 号 p. 1-10
    発行日: 2017/09/28
    公開日: 2018/01/15
    ジャーナル フリー

    生態系への悪影響からアメリカザリガニ Procambarus clarkii に対する防除活動が各地で行われている.効果的な防除技術の開発のため,構造の異なる 4 種の漁具(ドーム型かご・平型かご・網かご・セル瓶)の捕獲効率を伊豆沼・内沼に隣接する池で試験したところ,ドーム型かごがもっとも高い捕獲効率を示した.先行研究との比較から,漁具の捕獲効率はその入口の構造や生息するアメリカザリガニの体サイズの影響を受けている可能性が示唆された.ドーム型かごを 1 週間設置し,かご内の捕獲数の変化を調査したところ,設置期間を 1 日以上に延ばしてもその捕獲数は増加しなかった.この要因を検証した結果,餌の鮮度の低下や,前日までにかご内部に入ったアメリカザリガニの存在が,2 日目以降の捕獲効率を抑制することが示された.これらの結果から,アメリカザリガニを効率的に駆除するには,脱出を抑制する構造を持つ漁具を用い,毎日新鮮な餌に交換し,中のアメリカザリガニも回収する手法が有効だと考えた.

  • 荒川 裕亮, 柳井 清治
    2017 年20 巻1 号 p. 11-24
    発行日: 2017/09/28
    公開日: 2018/01/15
    ジャーナル フリー

    本研究では分布の南限地帯に生息する,カワヤツメ幼生の秋季の微生息場を石川県の中規模河川における野外生息環境調査と室内飼育実験により明らかにした.ワンド地形に生息する幼生の密度は対照区と比べて高く,ワンド地形はカワヤツメにとって重要な生息場であると考えられた.カワヤツメ幼生が生息場として選択したワンド地形の河床中には,細粒砂以下と有機物の割合が高かった.またワンド地形は対照区に比べて流速が緩やかであるという特徴があった.室内飼育実験においても幼生は粒径が最も細かい底質(0.25 mm 以下)を選好しており,幼生にとってこの粒径の底質が重要な生息条件であることが明らかになった.しかし野外生息環境調査より,底質に細粒な粒径と有機物が最も堆積するワンドにおいて,カワヤツメ幼生がほとんど確認されなかった.この地点は酸化還元電位の値が最も低い地点で底質が嫌気的であったために,幼生にとって生息しづらい環境であったことが推測される.また室内飼育実験において幼生が酸化還元電位の高い底質を選択したことからも,幼生は好気的な底質を選択すると考えられる.カワヤツメの分布南限に位置する町野川では比較的水温が高くなる.水温が高いことによって底質が嫌気的になりやすく,餌となる有機物が堆積しながらも,流れ込みなどによって好気的に保たれる環境が幼生の生息場として望ましい.

事例研究
  • 松前 大樹, 梁 政寛, 吉村 千洋
    2017 年20 巻1 号 p. 25-32
    発行日: 2017/09/28
    公開日: 2018/01/15
    ジャーナル フリー

    河川環境評価において河道の時空間的な動態の把握は必須であり,現地調査による計測が行われている.近年,衛星画像解析の高度化に伴い,現地調査に対し補完的に広域の簡易的な環境評価が出来る可能性が示唆されている.そこで本研究では,空間分解能 10 m の陸域観測技術衛星「だいち」で得られる画像を用いて,相模川の低地部河道を対象に,河道の時空間的変化(土地被覆および流路形状変化)の推定およびマッピングを行い,その手法の有効性を評価した.結果として,植生,砂礫,水域の空間分布および 1 ~2 年間隔でのその変化や,流路における川岸や砂州,堰の周辺にて砂礫の移動をモニタリングできることを示した.なお,今回使用した衛星画像とその幾何補正では,横断方向に約 10 m の不整合が生じたことから,それより大きなスケールの横断方向の地形変化を解析する上での本手法の有効性が明らかになった.以上から,日本の主要河川を対象とする場合,本手法は流路長 10 km を超える広域区画を対象とした河道形状変化の時系列評価に有効である可能性が示唆された.

  • 中田 和義, 小林 蒼茉, 川本 逸平, 宮武 優太, 青江 洋
    2017 年20 巻1 号 p. 33-41
    発行日: 2017/09/28
    公開日: 2018/01/15
    ジャーナル フリー

    本研究では,国内希少野生動植物種のスイゲンゼニタナゴを含む希少タナゴ類の保全手法の 1 つとして,人工産卵床に着目した.そして,希少タナゴ類が産卵場として利用する人工産卵床の二枚貝類の条件を解明することを目的とし,岡山県南部の農業水路に人工産卵床を設置する野外実験を行った. 本実験では,タナゴ類の繁殖期である 2014 年 3 月から 8 月に,二枚貝類 3 種(イシガイ,マツカサガイ,トンガリササノハガイ)を収容した長さ 50 cm × 幅 36 cm × 高さ 8 cm の長方形型トレーを人工産卵床として農業水路の実験地点に設置した.実験は第 1 ~7 期の実験期間を設けて実施し,1 期当たりの期間は 3 週間とした.各実験期間の終了後,人工産卵床の二枚貝類は実験室の水槽内で個体別に飼育し,二枚貝類から浮出する仔魚の個体数記録と種同定を行った.実験の結果,人工産卵床の二枚貝類からは,全実験期間を通して合計 679 個体のタナゴ類の仔魚が浮出した.その内訳は,イシガイから 420 個体,マツカサガイから 259 個体であり,トンガリササノハガイからの仔魚の浮出はなかった.生残した仔魚の種同定の結果,人工産卵床の二枚貝類から浮出した種は,個体数が多かった順にタイリクバラタナゴ,アブラボテ,ヤリタナゴ,カネヒラの 4 種であった.秋産卵型のカネヒラについては,本実験の実施前年に産卵したと考えられ,個体数は 9 個体のみであった.出現個体数の多かったタイリクバラタナゴ,アブラボテ,ヤリタナゴの二枚貝種選好性については,タイリクバラタナゴがイシガイとマツカサガイから浮出したのに対して,アブラボテとヤリタナゴはマツカサガイからのみ浮出が確認された.マツカサガイから浮出した仔魚の個体数は,タナゴ類 3 種間で有意差がみられ,タイリクバラタナゴに比べてアブラボテとヤリタナゴの浮出個体数が多かった.また,1 個体のイシガイとマツカサガイからは,それぞれ最大で 22 個体と 16 個体の仔魚が浮出した.同一個体のイシガイおよびマツカサガイから,タナゴ類 2 種または 3 種の仔魚が浮出した例も確認された.本実験では,スイゲンゼニタナゴの人工産卵床の利用は確認されなかった.今後の研究では,スイゲンゼニタナゴが人工産卵床を利用する条件を解明する必要がある.

レポート
トピックス
特集1:河川生態を分かり易く伝える
序文
事例研究
  • 吉冨 友恭, 田代 喬
    2017 年20 巻1 号 p. 61-72
    発行日: 2017/09/28
    公開日: 2018/01/15
    ジャーナル フリー

    河川は水中の視覚的に捉えにくい多くの要素で構成されている.また,河川生態は複雑かつ動的であり,生息地は微小な空間から広大な空間まで広がりをもっているため,現場において多くのことをとらえることは難しい.それらをわかりやすく表現するためには,河川の生態学的な視点に基づいた展示論が必要とされる.本研究では,水族館の生息環境展示を事例として,河川生態の捉え方と見せ方の展示論について再考した.はじめに,既往の研究にみられる河川の生息環境の類型と,人が河川という対象をとらえようとした際に制限される事項や傾向を整理することにより,展示の視点を見出した.また,質の高い展示を創出するためには,目的とする生息環境を含む典型的な風景を選定し,空間を透過する視点から特徴を踏まえた断面を抽出したうえで,基盤となる微地形の配置や作り込み,エコトーンにみられる水生動物や植生の導入,視線高を軸とした空間構成,対象環境を特徴づける光等を再現することが重要なポイントになることを明らかにした.見る人の視点については,生物と周囲の環境の関係を観察するために,視野と複数の視線高を確保することの重要性を示した.最後に,展示を補完・拡張するために導入される,イラストや映像を素材とするサインやモニター,端末等を使用した情報メディアについて考察することにより,肉眼では捉えることの難しい事象についても空間や時間を拡大・縮小して視覚情報化することができる点において,情報メディアの有効性,応用性を指摘した.

  • 渡辺 友美, 吉冨 友恭, 萱場 祐一
    2017 年20 巻1 号 p. 73-85
    発行日: 2017/09/28
    公開日: 2018/01/15
    ジャーナル フリー

    自然再生事業や生物多様性保全の取り組みでは,市民や行政に自然環境の現状や課題を的確に伝える技術が必要とされている.映像は見えにくい河川生態を分かりやすく伝えるツールとして環境教育や展示の場で活用され,効果が報告されてきた.しかしながら,河川生態の映像化そのものに関する研究は多くなく,映像開発の参考となる知見が不足している.そこで本稿では,著者が制作に関わった水環境の映像展示事例から制作上の留意点と技術を抽出し,河川生態の映像化について体系的な整理を試みた.

  • 真田 誠至, 池谷 幸樹, 吉冨 友恭, 萱場 祐一
    2017 年20 巻1 号 p. 87-98
    発行日: 2017/09/28
    公開日: 2018/01/15
    ジャーナル フリー

    河川を題材にした社会教育施設の教育現場では,フィールド体験型の学習プログラムが数多く実施されている.しかし,河川で見ることのできる現象は,どの程度の空間スケールで河川を捉えるかによって異なる場合が多い.そこで,本研究では河川の生息場に関する階層構造の空間スケールに基づいたプログラムを設計した.その中では,様々な河川の学習素材が持つ空間スケールの範囲を整理し,フィールド体験にそれらの学習素材を組み合わせた.実践の結果,河川で見られる現象への理解を深めることに繫がったとの意見を得ることができた.今後,フィールド体験型河川生態学習プログラムを設計する際には,フィールドで被験者が直接体験することで得られる情報と学習素材によって間接的な体験で得られる情報を整理して組み立てること,フィールド体験で得られる情報を補完するための学習素材が有効であることを指摘した.

  • 野崎 健太郎, 井上 光也, 寺山 佳奈, 高橋 伸行, 加藤 元海
    2017 年20 巻1 号 p. 99-105
    発行日: 2017/09/28
    公開日: 2018/01/15
    ジャーナル フリー

    本実践では,教員希望者が半数を占める大学生集団を対象にして,河川は多様な環境の連続体であることを理解させるために,四万十川の支流,梼原川上流部(高知県梼原町田野々)で 4 泊5 日の宿泊型自然体験学習を行った.自然体験学習の教育効果を高めるために,事前学習において Google Earth,地理院地図を用いて調査地の間接体験を行い,その教育効果を確認した.受講学生は,瀬・淵構造および,河床が砂礫から岩盤までの多様な河川環境を含む 1 つの区間の中を繰り返し移動しながら学習を進めた.事後の自由記述式の質問紙調査により,受講学生が河川には,多様な環境が連続していることを実感し,それらへの対応を理解していることが確認できた.受講学生の半数を占める保育者・教師志望者には,自身の近未来を見据えて,自然体験学習における安全確保の力を身に付けたいという要望が強い.質問紙に見られる受講学生の記述からは,本実践で実施した内容が,その要望に十分に応えていることを示していた.

  • 鶴田 舞, 中村 晋一郎, 萱場 祐一
    2017 年20 巻1 号 p. 107-115
    発行日: 2017/09/28
    公開日: 2018/01/15
    ジャーナル フリー

    川づくり計画策定時に意見を聴くべき対象として,川の将来を支える子どもに意識が払われている事例は少なく,また意見聴取の有効性等に関する研究は見られない.本研究は,子どもが描いた「川の将来像」に関する絵を用いた意見聴取方法に着目して事例分析を行い,子どもへの意見聴取の有効性,また描画による意見聴取の有効性及び課題を明らかにすることを目的とした.東京都杉並区・善福寺川流域にある井荻小学校の子どもが描いた,源流部水路の将来像の絵を用いて,描画内容の読み取り及び分析を行った.その結果,子どもの意見には治水等に関する視点に欠けるものの,日常的な川の利用について様々なニーズを持っており,描画により河川空間に望まれる機能や空間構成要素等,川の空間設計コンセプトにつながる有効な意見を表現できることが分かった.また,描画は子どもにとって自分の内にある思いやイメージを考え,表現する行為であり,描写技法の未熟さを考慮する必要があるものの,川に対する思いや川と自分たち・まちとの関わり方等に関する意見を聴取する手法として適していることが示唆された.

意見
特集2:気候変動下における自然と地域社会のレジリエンス―応用生態工学の新たな展開
序文
意見
パネルディスカッション:
訂正
feedback
Top