2019 年 22 巻 1 号 p. 61-71
富山河川国道事務所による神通川自然再生事業では,サクラマスを河川環境改善の指標種とした淵および多自然流路の整備が実施されてきた.筆者らは,今後の整備に資する知見を得ることを目的として,越夏場所として整備した淵および既存の淵におけるサクラマスの利用状況を確認するとともに,実際にサクラマスが定位していた場所の微生息環境を測定した.調査の結果,越夏場所の整備箇所ではブロック下部に静止するサクラマスが確認され,越夏場所として利用していたと考えられた.サクラマス確認地点の水深は概ね 2.0 m 以上であり,その多くにブロック等による隠れ場所が存在していた.また,サクラマスが定位していた底層の流速は平均 0.1 m/s 未満と緩やかであったのに対し,中層の流速は平均 0.3 m/s 程度と底層に比べて速かった.これらの変数を用いた統計解析の結果,サクラマスの確認地点は水深と中層の流速がともに大きいが,底層の流速は小さいということによって特徴づけられた.バイオテレメトリ調査において発信機を装着したサクラマスは,淵に滞留する個体が確認され,1 個体は整備した越夏場所に滞留していた.サクラマスに装着した水温計の水温と表層水温との間に明瞭な差は見られず,どちらもサクラマスの生息上限水温とされている 25℃ を概ね下回っていた.サクラマスが確認された場所の物理環境調査結果および統計解析結果から,これまでの越夏場所の整備にあたって必要とされてきた生息条件は妥当であり,整備した越夏場所の環境はその条件を満たしていたことが確認された.サクラマスの定位していた場所の水温は表層水温と同程度であった.水温が 25℃ を上回ることが少ない神通川においては越夏場所には必ずしも湧水の存在は必要ではなく,越夏場所の整備にあたっては上記の条件を満たすことが重要であると考えられた.