応用生態工学
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「里山グリーンインフラ」による気候変動適応: 印旛沼流域における谷津の耕作放棄田の多面的活用の可能性
西廣 淳大槻 順朗高津 文人加藤 大輝小笠原 奨悟佐竹 康孝東海林 太郎長谷川 雅美近藤 昭彦
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2020 年 22 巻 2 号 p. 175-185

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抄録

著者らは,かつて里山として利用されてきた自然環境を持続可能で魅力的な地域づくりに役立てる方策を「里山グリーンインフラ」と称し,個々の活動の有効性の検証や社会実装について議論している.本稿では,印旛沼流域に広く分布し,かつて水田として利用され,現在では多くが耕作放棄地になっている「谷津」(台地面に刻まれた枝状の幅の狭い谷)に着目し,谷津の湿地としての維持・再生や,その流域の台地・斜面の草原や樹林の維持・再生によってもたらされうる多面的機能を,既存の知見や現地での調査結果から論じる.具体的には,谷底部を浅く水温の高い水域として維持することは,脱窒反応を通して下流への栄養塩負荷を軽減しうる.谷底部での湧水を保全するとともに水分を保持する畔状の構造に成形することで,絶滅危惧種を含む多様な生物の生息場となる湿地環境を生み出しうる.また定量的評価に課題はあるものの,雨水の流出抑制や浸透を通して治水にも寄与する可能性がある.

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© 2020 応用生態工学会
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