応用生態工学
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22 巻, 2 号
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原著論文
  • 森 明寛, 前田 晃宏, 日置 佳之
    2020 年 22 巻 2 号 p. 117-124
    発行日: 2020/03/28
    公開日: 2020/04/25
    ジャーナル フリー

    生物多様性の低下が指摘されている汽水湖の鳥取県東郷池において,生育環境として重要な塩分と光環境に着目して淡水生水生植物セキショウモ Vallisneria asiatica Miki の生育ポテンシャルについて検討した.塩分では,セキショウモの生育場所について 2016 年 4 月から 1 年間観測した結果から,これまで報告されている塩分の上限値を超え,一時的に 6.98 PSU になる環境下でも生育できることが明らかとなった.また,2016 年の平均透明度から,水深 1.5 m まで生育できることが推定された.これらの条件を基に湖内の塩分分布図および湖底地形図からそれぞれ生育適地を抽出し,両条件を満たす北東部および西岸の入江が生育ポテンシャルの高いエリアとして広範囲に選定された.これらは年間を通じて塩分が高くならず,かつ,水深が浅い状態が保たれる場所として,本種の保全に向けて重要なエリアであると考えられる.

事例研究
  • 山本 敦也, 菅野 貴久, 町田 善康, 中束 明佳, 鈴木 雅也, 田中 智一朗, 金岩 稔
    2020 年 22 巻 2 号 p. 125-131
    発行日: 2020/03/28
    公開日: 2020/04/25
    ジャーナル フリー

    北海道美幌町内の小河川において越冬中の外来種ウチダザリガニ抱卵個体を選択的に捕獲することにより,より高い駆除効果を得ることを目的とし,ウチダザリガニの抱卵個体に電波発信器を装着して放流し,越冬中に再捕獲することによって越冬環境について調査を行った.同時に,ドローンに電波受信器を搭載して河道上空を飛行させることにより電波発信源をある程度特定し,その後指向性アンテナを用いて詳細な電波発信位置を特定する方法の開発も行った.2017 年 10 月に 3 個体に電波発信器を装着して放流し,同年 12 月にドローンと八木式アンテナを用いて 3 個体全ての越冬場所を特定,回収した.抱卵個体は河岸より 1-2 m,表土から 60-90 cm の地点の蛇行区間の内側の土中で発見され,越冬環境は蛇行区間の内側といった高水敷全体に広がるものと思われた.そのため,越冬中の抱卵個体の選択的な捕獲は現実的に不可能と思われた.一方で,ドローンと八木式アンテナを用いた電波発信源の特定方法は土中かつ水中でも有効であることが示され,今後の応用が期待される.

  • 川尻 啓太, 末吉 正尚, 石山 信雄, 太田 民久, 福澤 加里部, 中村 太士
    2020 年 22 巻 2 号 p. 133-148
    発行日: 2020/03/28
    公開日: 2020/04/25
    ジャーナル フリー

    積雪寒冷地の札幌市では路面凍結防止のために,塩化ナトリウムを主成分とする凍結防止剤が大量に散布されている.散布された塩類は除雪された雪とともに,雪堆積場へと集められ,春になると融けて近隣の河川に流れ込む可能性がある.しかしながら,雪堆積場からの融雪水中の塩類の含有量や河川水質,生物への影響はほとんど明らかになっておらず,その実態把握が求められている.本研究では,まず,札幌市内の 73 箇所の雪堆積場における人為由来の塩化ナトリウム含有量の推定をおこなった.次に,2015 年 2 月から 6 月にかけて雪堆積場 7 か所とその近隣河川を対象に,雪堆積場からの融雪水の水質ならびに雪堆積場からの融雪水が流入する上流部(コントロール区)と下流部(インパクト区)における河川水の水質調査,河川に生息する底生動物と付着藻類の定量調査を 2015 年 2 月から 6 月にかけて継続的に実施した.調査の結果,融雪初期において,雪堆積場からの融雪水中の Na濃度と Cl濃度が河川水の 2~9 倍と極めて高くなる傾向が見られた.さらに同時期のインパクト区における Naおよび Cl濃度がコントロール区に比べて 1.56 ± 1.27 mg L-1,3.05 ± 2.74 mg L-1(平均値±標準偏差)上昇した.生物については底生動物の一部では雪堆積場の負の影響が認められ,トビケラ目の個体数と代表的な水生昆虫 3 目(カゲロウ目,カワゲラ目ならびにトビケラ目)の総個体数はコントロール区よりインパクト区で低い傾向が認められた.積雪寒冷地における河川生態系の保全のためには,融雪開始時期の河川水質の急激な変化を抑えることが重要であり,これにより底生動物への影響を回避することができるだろう.

  • 水野 敏明, 東 善広, 北井 剛
    2020 年 22 巻 2 号 p. 149-154
    発行日: 2020/03/28
    公開日: 2020/04/25
    ジャーナル フリー

    本報告は,琵琶湖に流入する 10 河川における,アユの産卵適地とされる場の河床礫組成の特徴を記述することを目的とした.2014 年の 9 月 14-16 日の期間に,各河川において,河口から 1 つ目の堰周辺の砂州の瀬頭もしくは瀬尻の浮石帯を産卵適地とみなし,線格子法により河床表面の礫を採取し礫径を計測した.その結果,各河川における礫径の平均値は 5.2-28.4 mm,中央値は 4.8-28.1 mm,であり,32 mm 未満の粒径の占める割合は 57-100%であった.この結果は,アユの産卵環境に関する既存の報告と概ね一致していた.ただし,湖東の河川の粒径分布は,既存の報告によりアユが選好するとされる粒径よりも大きめの礫に偏る傾向を示した.このことは,近年,それらの河川で指摘されているアユの産卵環境の悪化と関連するかもしれないと思われた.今後,上流からの土砂供給動向など,産卵環境の形跡機構についてより詳細に検討する必要がある.

短報
  • 丹羽 英之, 今井 浩介, 鈴木 俊輔, 清水 龍, 小串 重治
    2020 年 22 巻 2 号 p. 155-163
    発行日: 2020/03/28
    公開日: 2020/04/25
    ジャーナル フリー

    湧水の見られる河川区間として淀川水系桂川(京都府亀岡市)と岸田川水系久斗川(兵庫県美方郡新温泉町)を調査対象とした.UAV を用い可視光と熱赤外のオルソモザイク画像を得た.現地調査とオルソモザイク画像の目視判読により水草の分布を把握した.高い空間解像度の熱赤外オルソモザイク画像により,河川水の表面温度を把握することができた.河川水の表面温度は空間的不均質性を有していた.河川水の表面温度と水草分布の関係を分析した結果,外来種は在来種より分布パッチの表面温度が有意に高いこと,ナガエミクリやバイカモといった絶滅危惧種の分布パッチの表面温度は他の種より有意に低いことがわかった.水草に限らず河川生態系の解析に熱赤外オルソモザイク画像を応用することで,生物と水温の新しい関係が明らかになることが期待される.本研究により UAV で取得した熱赤外オルソモザイク画像の河川生態系解析への応用可能性を示すことができた.

  • 野田 康太朗, 中島 直久, 守山 拓弥, 森 晃, 渡部 恵司, 田村 孝浩
    2020 年 22 巻 2 号 p. 165-173
    発行日: 2020/03/28
    公開日: 2020/04/25
    ジャーナル フリー

    本研究では,トウキョウダルマガエルを対象とし,第一に PIT タグの個体へおよぼす影響およびタグリーダーによる探知能力の両面から,越冬個体の探知に適した手法か検討した.第二に,対象地にて PIT タグを挿入した個体の越冬場所の探知を試みた.さらに,栃木県上三川町の水田水域において越冬個体の探知を試みた.PIT タグが個体へおよぼす影響を調べるため,PIT タグを挿入した群と挿入していないコントロール群を 15 日間飼育したところ,斃死及びタグが脱落した個体はおらず,体重の増減にも両群間に有意な差は見られなかった.探知能力の検討では PIT タグを土中に埋める試験区を設け実験した.その結果,深度 20 cm までの読み取りは可能であったが,30 cm より深くは読み取れなかった.さらに,栃木県上三川町で実施した水田水域における越冬個体の探知では,30 個体の越冬場所を確認した.Neu 法により解析したところ,30 個体の越冬地点は,畑地に集中していることが明らかとなった.また,越冬深度は 7.4-27.0 cm,平均 18.3±4.7 SD [cm] であった.この結果から,水田水域に生息するカエル類と比較し,本種はより深い地中で越冬する生態を有する可能性もあった.一方で,越冬深度の違いが PIT タグと掘削という手法の違いに起因する可能性もある.なお,本研究の結果は冬期湛水水田が卓越した地域において実施された事例的な研究である.今後は PIT タグを用いた越冬個体の探知方法により,異なる気象条件の地域,営農方法や圃場構造等が異なる地区での知見を集積することが望まれる.

意見
  • 西廣 淳, 大槻 順朗, 高津 文人, 加藤 大輝, 小笠原 奨悟, 佐竹 康孝, 東海林 太郎, 長谷川 雅美, 近藤 昭彦
    2020 年 22 巻 2 号 p. 175-185
    発行日: 2020/03/28
    公開日: 2020/04/25
    ジャーナル フリー

    著者らは,かつて里山として利用されてきた自然環境を持続可能で魅力的な地域づくりに役立てる方策を「里山グリーンインフラ」と称し,個々の活動の有効性の検証や社会実装について議論している.本稿では,印旛沼流域に広く分布し,かつて水田として利用され,現在では多くが耕作放棄地になっている「谷津」(台地面に刻まれた枝状の幅の狭い谷)に着目し,谷津の湿地としての維持・再生や,その流域の台地・斜面の草原や樹林の維持・再生によってもたらされうる多面的機能を,既存の知見や現地での調査結果から論じる.具体的には,谷底部を浅く水温の高い水域として維持することは,脱窒反応を通して下流への栄養塩負荷を軽減しうる.谷底部での湧水を保全するとともに水分を保持する畔状の構造に成形することで,絶滅危惧種を含む多様な生物の生息場となる湿地環境を生み出しうる.また定量的評価に課題はあるものの,雨水の流出抑制や浸透を通して治水にも寄与する可能性がある.

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