応用生態工学
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事例研究
平成 29 年 7 月九州北部豪雨による斜面における表層崩壊の要因分析
浅田 寛喜皆川 朋子小山 彰彦一柳 英隆
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2020 年 23 巻 1 号 p. 185-196

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抄録

平成 29 年 7 月九州北部豪雨による斜面崩壊と流木の発生は下流域に甚大な被害をもたらした.本研究は,生態系に配慮した減災・防災に関する知見を得るため,朝倉市を流れる筑後川支流の 10 河川の流域で発生した表層崩壊を対象に,斜面崩壊の有無に及ぼす植生の状態を含めた斜面崩壊要因の影響を統計的手法を用いて分析した.1 次谷集水域で発生させた斜面ユニットを解析単位として,斜面崩壊が発生した崩壊地(640 データ)と発生しなかった非斜面崩壊地(52,955 データ)を設定し,応答変数を崩壊の有無,説明変数を標高,傾斜,方角, SPI(Stream Power Index),TWI(Topographic Wetness Index),表層地質,植生,1 時間最大雨量とした一般化線形モデル(GLM)とランダムフォレスト(RF)を構 築し分析した.GLM の結果,斜面崩壊に正に寄与する要因として,標高,傾斜,1 時間最大雨量,表層地質の深成岩,スギ幼齢林(林齢 1 ~10 年),スギ若齢林(林齢 11~25 年),ヒノキ若齢林(林齢 11~25 年),斜面崩壊に負に寄与する要因として TWI,表層地質の未固結堆積物が選択され,植生の各カテゴリーの回帰係数の比 較からは,スギ幼齢林は,スギ壮齢林,ヒノキ壮齢林よ り崩壊しやすいこと等が定量的に示された.また,RF の結果から,植生の斜面崩壊の発生に与える重要度は, 降雨や地形的条件より小さかったが,最も大きかった降 雨の約 4 割程度であり,小さくない値であることが示された.被災地の森林の回復においては斜面崩壊の抑制を 考慮した斜面植生のあり方,さらに,本研究では扱っていないが,生物多様性や生態系の保全の観点を踏まえた 検討が望まれる.

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© 2020 応用生態工学会
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