応用生態工学
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事例研究
平成 29 年 7 月九州北部豪雨被災地域の潜在的な淡水魚類相の推定
鬼倉 徳雄中島 淳
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2020 年 23 巻 1 号 p. 171-183

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抄録

災害発生時,被災河川の復旧や整備を検討するためには,河川生態系の目標設定が必要である.平成 29 年九州北部豪雨被災河川の目標設定のための参考資料を提示することを目的として,筑後川流域内の淡水魚類相データおよび 3 次メッシュスケールでの GIS データを使って,同流域内での各種の分布モデルを構築し,被災地周辺の GIS データをモデルに外挿することで,対象河川の潜在的な魚類相を推定した.34 種を対象にモデルを構築したところ,コイとナマズを除く 32 種で高い精度を伴うモデルが構築できた.23 種は標高を,13 種は地形の傾斜度を説明変数として選択した.また,3 次メッシュ内の水田面積や総河川長なども説明変数として多くの種が選択した.構築したモデルを使って,被災地である朝倉市,東峰村を流れる河川について,各種の出現の可能性を見積もったところ,河川性魚類ではカワムツ,タカハヤ,ムギツクの,氾濫原性ではドンコの潜在的生息河川数が多かった.絶滅危惧種では,河川性のスナヤツメ,ニホンウナギ,ヤマトシマドジョウ,アカザ,オヤニラミが 15 河川以上で,氾濫原性では数種のタナゴ類,アリアケスジシマドジョウ,ミナミメダカが 10 河川前後で,高い生息の可能性を示した.生息の可能性が高いと推定された種を各河川の潜在的魚類相構成種と仮定したとき,5 河川程度は河川性,氾濫原性を問わず,大半の魚種が生息可能な河川であると推定された.種数の多さは,標高 30 m 未満の区間を持ち,希少タナゴ類を含めた氾濫原性魚種が生息可能な河川であることに起因している.このような河川では直接被災した上流部だけでなく,下流部,そして,周囲の氾濫原水域にも配慮した整備が必要であると言える.河川性魚類に着目した場合,標高に対する応答曲線が 右下がり,凸型,右上がりと魚種ごとに様々であった.このことは,上流から下流まで,様々な種が生息し,流程に応じて魚類相が変化することを示している.それゆえ,河川性魚種の潜在的な種数が多い河川では,流程に応じて保全・再生対象となる魚種が変わることを考慮して,その復旧と整備を行う必要があると言える.

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