2021 年 24 巻 2 号 p. 235-244
三重県宮川の河口から約 30 km 地点にある長ケ逆調整池堰堤において採捕した天然遡上アユ 300 個体に PIT タグを挿入して放流し,宮川の支流である大内山川にある滝原堰堤の魚道内に設置した PIT タグリーダーによ って遡上を記録し,一般化加法モデルを用いた遡上要因の解明を行った.2018 年 4 月 25 日に放流された標識魚のうち,PIT タグリーダーに記録されたのは,5 月 3 日から 7 月 5 日にかけての 24 個体(8%)であった.一般化加法モデルによる要因解析の結果,アユの遡上には滝原堰堤の取水量と宮川の水位が関係していることが示唆された.このこととアユの遡上特性から,遡上魚の一部は宮川本流を大内山川との合流点を過ぎてそのまま上流へ遡上し,三瀬谷ダム直下で滞留していることが予想された.三瀬谷ダムに魚道は付設されていないため,これらのアユの多くは資源的に利用されていないと推察される.これらのアユの宮川上流や大内山川への人為的な汲み上げ,あるいは大内山川への遡上の誘導など有用な資源利用方法の考案が望まれる.