応用生態工学
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24 巻, 2 号
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原著論文
  • 松寺 駿, 森 照貴, 肘井 直樹
    2021 年 24 巻 2 号 p. 139-151
    発行日: 2021/12/10
    公開日: 2022/04/20
    [早期公開] 公開日: 2021/12/10
    ジャーナル フリー

    河川に生息する魚類にとって,水際部は産卵場所や稚魚の成育場となるため重要な場所とされている.そのため,コンクリート護岸の設置による影響が懸念されているが,遊泳魚に対する負の影響に比べ,底生魚への影響はあまり示されていない.底生魚は砂泥を好む魚種から礫を選好する魚種まで,その特性は幅広く,対象とする河川区間に生息する魚種相に応じて,コンクリート護岸による影響は異なるものと考えられる.そこで本研究では,魚種相が異なると考えられる2つの地域を対象に,コンクリート護岸の設置が魚類群集にどのような影響を及ぼすのか,水際部の環境が異なる河川区間において比較することで検証を行った.揖斐川または長良川の中流および下流部に流入する中小河川において,両岸とも流水がコンクリート護岸に接する区間(CC タイプ)と,護岸の有無に関わらず,両岸ともに流水が堆積した土砂に沿って流れる区間(SS タイプ),さらにコンクリート護岸と堆積土砂に片岸ずつ接する区間(CS タイプ)の3つを各調査河川において1つずつ選定し,調査を行った.遊泳魚の種数および個体数は水際が砂礫となった区間に比べ流水が直接コンクリート護岸に接した区間で少なくなっていた.一方,礫底を好む底生魚の個体数は流水がコンクリート護岸に接した区間で多くなっていた.流程に応じて水際部の環境の違いに対する魚類の種組成の反応も異なっており,コンクリート護岸の設置が魚類群集に及ぼす影響は魚類の生活様式や河川の流程に応じて変化することが明らかとなった.さらに,流水が片岸のみコンクリート護岸に接した区間における魚類群集の構造(種数,個体数,種組成)は両岸の水際が砂礫とな った区間と類似する傾向がみられ,中小河川においてコンクリート護岸を設置する場合,片岸のみにとどめられるような配慮・工夫をすることで魚類群集への影響を緩和できる可能性が示唆された.

  • 佐藤 奏衣, 矢部 和夫, 木塚 俊和, 矢崎 友嗣
    2022 年 24 巻 2 号 p. 153-171
    発行日: 2022/03/17
    公開日: 2022/04/20
    [早期公開] 公開日: 2022/03/17
    ジャーナル フリー

    近年,高濃度の栄養素やミネラルによる人為負荷が湿原に与える影響が深刻化している.本研究の目的は,地下水経由の人為負荷がワラミズゴケの出現と分布に与える影響を明らかにすることである.2014 年 8 月,北海道勇払湿原群で,流域に畑地のある負荷区と畑地のない対照区を設置した.次に,群落と地下水の水文化学環境を調査し,ワラミズゴケの出現と群落分布を規定する環境因子の関係を解析した.Clで標準化した各イオン当量比より,負荷区の Ca2+, Mg2+,および Kの降水寄与率が対照区より低かったことから,これらのイオンの負荷区の地下水への人為負荷が示された.nMDS の結果,ワラミズゴケ群落の分布は pH,ミネラル(Na,Ca2+,Mg2+,K,Cl),および無機態窒素(IN)に対して負の関係を示した.また,ロジスティック回帰分析は,ワラミズゴケの出現は pH,ミネラル,IN,競争種,水位に対して負の関係を示し, nMDS の結果とおおよそ一致した.ロジスティック回帰分析から 9 つの環境因子に関するワラミズゴケの出現可能範囲の推定値が得られた.ワラミズゴケの一部は出現可能範囲外の高濃度ミネラル域にも出現し,ハンモック内部で地下水とは異なる水質が維持されていることが示唆された.パス解析の結果,ワラミズゴケの出現に対する各水文化学環境因子の効果は,競争種の競争排除による間接効果より直接効果のほうが高かった.したがって,ワラミズゴケ保全のためには,水文化学環境を出現可能範囲に維持することと,競争種を抑制することが重要である.

  • 森 照貴, 川口 究, 早坂 裕幸, 樋村 正雄, 中島 淳, 中村 圭吾, 萱場 祐一
    2022 年 24 巻 2 号 p. 173-190
    発行日: 2022/03/17
    公開日: 2022/04/20
    [早期公開] 公開日: 2022/03/17
    ジャーナル フリー

    生物多様性の現状把握と保全への取組みに対する社会的要求が高まる一方,河川を含む淡水域の生物多様性は急激に減少している可能性がある.生態系の復元や修復を実施する際,目標を設定することの重要性が指摘されており,過去の生息範囲や分布情報をもとにすることは有効な方法の一つである.そこで,本研究では 1978 年に実施された自然環境保全基礎調査(緑の国勢調査)と 1990 年から継続されている河川水辺の国勢調査を整理し,1978 年の時点では記録があるにも関わらず,1990 年以降,一度も採取されていない淡水魚類を「失われた種リスト」として特定することを目的とした.109 ある一級水系のうち,102 の水系で二つの調査結果を比較することができ,緑の国勢調査で記録されている一方,河川水辺の国勢調査での採取されていない在来魚は,全国のデータをまとめるとヒナモロコとムサシトミヨの2種であった.比較を行った 102 水系のうち,39 の水系では緑の国勢調査で記載があった全ての在来種が河川水辺の国勢調査で採取されていた.一方,63 の水系については,1 から 10 の種・種群が採取されていないことが明らかとなった.リストに挙がった種は水系によって様々であったが,環境省のレッドリストに掲載されていない種も多く,純淡水魚だけでなく回遊魚や周縁性淡水魚も多くみられた.水系単位での局所絶滅に至る前に「失われた種リスト」の魚種を発見し保全策を講じる必要があるだろう.そして,河川生態系の復元や修復を実施する際には,これら魚種の生息環境や生活史に関する情報をもとにすることで,明確な目標を立てることが可能であろう.

  • 小山 彰彦, 乾 隆帝, 伊豫岡 宏樹, 皆川 朋子, 大槻 順朗, 鬼倉 徳雄
    2022 年 24 巻 2 号 p. 191-216
    発行日: 2022/03/17
    公開日: 2022/04/20
    [早期公開] 公開日: 2022/03/17
    ジャーナル フリー

    堤体高 15 m を越えるハイダム撤去に対する河口域の生態系の応答を調査した事例は世界的に限られている.本研究では荒瀬ダム撤去前に該当する 2011 年から撤去後の 2018 にかけて調査を行い,球磨川水系の河口域の底質と生物相の変化を評価した.調査期間の秋季と春季に調査を計 14 回実施し,球磨川と前川に設置した 178 定点が調査された.このうち,本研究では 138 定点を解析に使用した.底質変化の指標として,調査定点のシルトと粘土の割合を算出した.結果,2012 年の春と 2014 年の春にそれぞれ粗粒化が認められた.これらの粗粒化は主に 2010 年の荒瀬ダムゲートの開放と 2011 年の大規模出水と関連すると考えられる.底生生物群集の変動を解析した結果,定点ごとの生物相の変動は,特定の調査時期,あるいは季節性に基づかないことが示唆された.この結果から,ダム撤去が河口域の底生生物群集に与えた影響は決して大きくなかったと考えられる.一方,球磨川と前川の両河川では内在性種が 2012 年の秋季から 2013 年,あるいは 2014 年の秋季にかけて顕著に増加した.同時期に,内在性種のアナジャコとニホンスナモグリ,およびこれらの巣穴を利用する共生種の出現定点数の増加が認められた.アナジャコとニホンスナモグリは砂泥質,および砂質環境に生息するため,底質の粗粒化が本種らの生息地の拡大を促進した可能性が示唆される.しかしながら,本調査を開始する前には河口域で底質のかく乱が既に観測されている点,本調査域では河川改修や自然再生事業に伴い直接的な土砂の投入が行われている点などから,本研究で観察された底生生物の出現パターンの変化が荒瀬ダム撤去とどの程度直接的に関係しているのかは十分に検証できていない.この関係を明らかにするために,今後,荒瀬ダムの堆積土砂の動態を評価すべきであろう.

総説
  • 藤田 朝彦, 横山 良太, 加藤 康充, 井上 修, 原田 守啓
    2022 年 24 巻 2 号 p. 217-234
    発行日: 2022/03/23
    公開日: 2022/04/20
    [早期公開] 公開日: 2022/03/23
    ジャーナル フリー

    アユ Plecoglossus altivelis は日本の淡水魚として,も っとも重要な水産魚種の 1 つである.河川におけるアユの資源量は,漁業協同組合等の放流による寄与も大きいが,多くの河川では,自然な再生産による資源量維持が主体となっている場合が多い.また,アユは河川内において,河床の付着藻類を摂餌することから,藍藻類やカゲロウ類など特定の生物を増加させる等,河川内の藻類相,底生動物相に強く関わるため,河川生態系において重要な位置を占める種である.アユ産卵場環境や産卵生態についての過去の調査研究の歴史は長く,主に水産試験場や大学等で行われてきた報告が多数存在するが,アユの生態・生活史との関係性も含めた総括的な整理はなされておらず,産卵環境の保全のための指針となる基本的な物理環境条件についての知見の総合化はいまだ不十分であると考える.よって,本研究では,これまでに報告されているアユの産卵環境についての文献を広く収集し,産卵環境の物理環境条件に関するデータを抽出した上で,それらの情報を総括し,豊富な研究事例とアユの生態・生活史の理解に基づく "アユの産卵場" 適地の条件を明らかにすることを目的としたレビューを行った.文献は,アユの産卵に関する記載のある研究についての文献を網羅的に収集し,1895 年~2019 年までに出版された計 339 件の論文から,その産卵環境の物理的条件を整理した.これらの文献は 9 割近くが自然河川の産卵場で得られたデータを使用しているが,人工河川での実験事例や,人工造成箇所のデータも含まれる.物理的条件については,産卵場の流速,水深,河床材,貫入深(河床軟度),卵の埋没深の 5 つの物理的条件を抽出・整理した.今回整理された情報は,過去に一般的な知見として認識されているアユ産卵環境の条件と大きな差異は無かったが,アユの産卵に関わる生理生態情報や土砂水理学的考察を踏まえ,5 つの物理的条件は独立した変数ではなく,浮き石状態の小礫で構成された河床環境を有する早瀬が,アユの産卵場として選好されていることが描き出された.アユの産卵場は,出水による土砂移動によってもたらされた早瀬への土砂の堆積・侵食の過程によって形成され,有限の寿命がある一時的産卵場(temporary spawning habitat) とでもいうべきハビタットであると考えられる.

事例研究
  • 山本 敦也, 片平 浩孝, 増渕 隆仁, 田中 智一朗, 渡邊 典浩, 金岩 稔
    2021 年 24 巻 2 号 p. 235-244
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/04/20
    [早期公開] 公開日: 2021/09/20
    ジャーナル フリー

    三重県宮川の河口から約 30 km 地点にある長ケ逆調整池堰堤において採捕した天然遡上アユ 300 個体に PIT タグを挿入して放流し,宮川の支流である大内山川にある滝原堰堤の魚道内に設置した PIT タグリーダーによ って遡上を記録し,一般化加法モデルを用いた遡上要因の解明を行った.2018 年 4 月 25 日に放流された標識魚のうち,PIT タグリーダーに記録されたのは,5 月 3 日から 7 月 5 日にかけての 24 個体(8%)であった.一般化加法モデルによる要因解析の結果,アユの遡上には滝原堰堤の取水量と宮川の水位が関係していることが示唆された.このこととアユの遡上特性から,遡上魚の一部は宮川本流を大内山川との合流点を過ぎてそのまま上流へ遡上し,三瀬谷ダム直下で滞留していることが予想された.三瀬谷ダムに魚道は付設されていないため,これらのアユの多くは資源的に利用されていないと推察される.これらのアユの宮川上流や大内山川への人為的な汲み上げ,あるいは大内山川への遡上の誘導など有用な資源利用方法の考案が望まれる.

  • 松井 明
    2021 年 24 巻 2 号 p. 245-258
    発行日: 2021/12/10
    公開日: 2022/04/20
    [早期公開] 公開日: 2021/12/10
    ジャーナル フリー

    水田生態系における生物多様性保全機能の重要性が広く認識されるようになり,水田地域に何かしらの水域を通年維持することの重要性が知られてきている.本研究では福井県小浜市国富地区に造成された水田退避溝における魚類の遡上および降下を報告する.海域に近い本地区の水田退避溝は,ドジョウおよびオオシマドジョウ(純淡水魚)が産卵場所としてだけでなく越冬場所として利用していた.ウグイ,ウキゴリ(回遊魚)およびマハゼ(汽水・海産魚)が成長場所としてだけでなく越冬場所として利用している可能性が示唆された.つまり,河川や排水路および海と比較して環境変化が小さい水田退避溝は,多くの魚類にとってゆりかごになっていると考えられる.

  • 宮園 誠二, 児玉 貴央, 赤松 良久, 中尾 遼平, 齋藤 稔, 辻 冴月
    2021 年 24 巻 2 号 p. 259-266
    発行日: 2021/12/10
    公開日: 2022/04/20
    [早期公開] 公開日: 2021/12/10
    ジャーナル フリー

    本研究は一級河川江の川の土師ダム下流区間を対象にし,環境 DNA 分析を用いて本流,および支流のアユの生息状況を評価し,アユ生息場としての支流の機能を評価した.続いて,江の川支流におけるアユの環境 DNA 濃度と環境要因との関係から,アユが支流を利用するために必要な環境条件を検討した.本研究の結果から,用水路型の支流よりも自然河川型の支流のほうがアユの生息場として機能している可能性があることが明らかとなった.また,2019 年の夏季においては,支流の流量が大きくなるほどアユの生息密度が増加する可能性が示された.今後は,大規模河川の支流において,本研究で検討されなかった環境要因のアユへの影響を検討する必要がある.そして,利水の観点から流量を相対的に多く確保できる支流を中心に,アユの好む河床材料や夏季の水温上昇を抑える河岸植生の保全を意識した川づくりを進めていくべきであろう.

  • 瀬口 雄一, 鶴谷 未知, 梶 圭佑, 日下 慎二, 弓場 茂和
    2022 年 24 巻 2 号 p. 267-278
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    [早期公開] 公開日: 2022/03/07
    ジャーナル フリー

    オオバナミズキンバイは,我が国における侵略的外来水生植物であり,特定外来生物に指定されている.近年,全国各地で除去作業が行われているが,根絶には至っていない.淀川下流域でも 2017 年以降,国土交通省淀川河川事務所によって毎年除去が実施されているが,根絶には至っていない.本種が根絶できない要因は,除去時に取り残しがあることと,取り残された個体の再生速度が除去作業量を上回るためと考えられる.そこで,本研究は本種の効率的な除去を目的に,覆土による生長抑制や植物体を腐敗・枯死させることや,本種が被陰に弱いという特性を利用した淀川式除去手法を開発・試行した. 本手法の特徴は継続的で段階的な除去を行いながら除去した植物体を腐敗・枯死させることにより,従来の除去作業で課題となっていた「除去した植物体の回収・揚陸作業」と「除去した植物体の処理」を行わずに除去の作業性を上げた点である.また,本手法は従来の除去作業では取り残されていた個体を精度良く除去することができるため,再繁茂しにくく,結果的には効率的な除去ができた.ただし,除去効果の持続性や適用条件の検証については,今後も継続してモニタリングする必要がある.なお,本手法により水質に顕著な悪影響は確認されなかった. 本手法は従来の除去手法で課題であった効率性や再繁茂抑制効果を改善した手法であることから,今後の市民参加による管理活動が容易になる可能性がある.淀川河川事務所では,住民等と行政の橋渡し役である河川レンジャー活動を通じて,市民による除去体制を構築すべく,取り組みを進めている.今後は,他河川等において本手法の適用事例を増やし,様々な状況やナガエツルノゲイトウ等の他の外来種への適用を検討することが望まれる.

  • 中西 彬, 花井 隆晃, 伴 邦教, 服部 翔吾, 太田 宗宏, 谷口 義則
    2022 年 24 巻 2 号 p. 279-287
    発行日: 2022/03/23
    公開日: 2022/04/20
    [早期公開] 公開日: 2022/03/23
    ジャーナル フリー

    愛知県の谷津田環境で実施される造成事業の計画地に生息するホトケドジョウの保全を検討するため,計画地域にある 2 河川(下流で合流)の 7 地点とこれらと本川が異なる 1 地点を対象にミトコンドリア DNA の D-loop 領域とマイクロサテライト DNA を解析し,遺伝的構造を把握した.ミトコンドリア DNA は 2 河川 7 地点間に変異は認められず,遺伝情報が既知の東海集団に属すると判定された.また,マイクロサテライト DNA は,帰属性解析及び FST 値の結果から,河川流域ごとに遺伝的なまとまりがあり,2 河川間で遺伝的分化の程度に差があった.事業の影響を受ける 1 地点と近隣の 1 地点は,遺伝的多様性が非常に低く,2 地点間には多少の遺伝的分化が見られ,圃場整備による流路の分断化や個体群の小規模化の影響があると考えられる.この 2 地点は,過去には遺伝的交流があったと推測されることから,両地点の個体群を一体とした生息地の確保や遺伝的交流の確保が有効であると考えられる.

  • 田和 康太, 佐川 志朗
    2022 年 24 巻 2 号 p. 289-311
    発行日: 2022/03/23
    公開日: 2022/04/20
    [早期公開] 公開日: 2022/03/23
    ジャーナル フリー

    本研究では,豊岡市内の休耕田を周年湛水した水田ビオトープにおいて健全な湿地環境の指標分類群となるトンボ目幼虫,水生コウチュウ目,水生カメムシ目およびカエル類を対象とした生息状況調査を実施した.まず,経年的なモニタリング調査により,各水生動物の生活史において水田ビオトープが季節的にどのように寄与しているか明らかにすることを目指した.また,これらの水生動物の季節消長を周辺の水田およびマルチトープ(承水路)と比較することにより,水田ビオトープにおける水生動物群集の特徴を整理した.水田ビオトープには,ため池に生息するトンボ目や年多化性のトンボ目,コミズムシ属,早春期に繁殖するニホンアカガエル等の繁殖場所となることが示唆された.また,水生コウチュウ目成虫の個体数が 8 月以降に急増し,さらに深場では,ミズカマキリやハイイロゲンゴロウの個体数が秋期に急増した.このことから,水田ビオトープは多種の水生昆虫にとって,周辺水田の落水時避難場所や非繁殖期の生息場所,越冬場所となることが示唆された.その一方で多種の水生コウチュウ目やアカネ属,ニホンアマガエル,ヌマガエルは水田ビオトープよりも一時的水域である調査区の水田やマルチトープを主な繁殖場所とすると推察された.このことから,各水生動物の種ごとあるいは目的や季節ごとに選好する水域が変化することを踏まえ,周年湛水域である水田ビオトープだけでなく一時的水域である水田やマルチトープといった様々なタイプの水域が組み合わせて水生動物群集の多様性を保全すべきと考えられた.また,水田ビオトープの深場がウシガエルの繁殖場所となっている負の効果もみとめられ,外来種の繁殖抑制等,水田ビオトープの適切な管理を行いながら水生動物群集の保全効果を高めていく必要があると推察された.

  • 柏原 聡, 西 浩司
    2022 年 24 巻 2 号 p. 313-320
    発行日: 2022/03/23
    公開日: 2022/04/20
    [早期公開] 公開日: 2022/03/23
    ジャーナル フリー

    本研究は,世界で最も早く国内版ミレニアム生態系評価を実施した英国を対象に,生態系サービスの概念が国内の政策や施策にいかにして反映されてきたものかを把握し,我が国における諸政策への生態系サービスの取り込みの参考とすることを目的とした.英国における生態系サービス概念の国内政策への反映は,国際的な動向に素早く反応し,生物多様性関連政策に生態系アプローチを早くから取り入れる政策を実行してきたことが大きい.特に UKNEA 以前では,2007 年に PSA28 とこれを受けた行動計画である「健全な自然環境の確保」,UKNEA の公表とほぼ同時に「白書」(本文参照), UKNEA 以降ではすべての政策策定から事後評価に至るまで網がかかる「緑本」,「赤紫本」の中に生態系サービスへの考慮を規定されたことが大きいと考えられた.一方,我が国では英国のような「緑本」,「赤紫本」のような仕組みはないが,生物多様性国家戦略,生物多様性地域戦略を「生物多様性という新たなプラットフォーム」(及川,2010)として有効に活用することにより,縦横断的な政策検討を実施することが可能になっている.次期国家戦略では「エビデンスに基づく政策立案(EBPM)を目指す」ことが課題とされているが,「未開拓の研究上のギャップ」と言われている「生態系サービスとその付加価値の影響を追跡すること」が可能となれば,国際的にも有益な事例となるとともに,生態系サービスの考え方が社会全般に浸透することにつながるものと思われ,次期国家戦略による諸政策への生態系サービスの主流化が期待される.

  • 辻 盛生, 丹波 彩佳, 鈴木 正貴
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 24 巻 2 号 p. 321-330
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    [早期公開] 公開日: 2022/03/07
    ジャーナル フリー

    カワシンジュガイは,河川上流域に生息する淡水二枚貝であり,絶滅危惧種である.調査地は湧水が点在する河川源流域の河川幅 1~4 m 程度の小河川であり,流程約 6.5 km に 4 箇所の調査区を設けた.上流の調査区で冬季に日周性のあるCl,Na濃度の上昇が確認された.調査期間中の最大値は 453 mg Cl L-1 であり, EC100 mS m-1に相当する 283 mg Cl L-1を越える濃度が 2018 年に 12 回,2019 年に 7 回記録された.調査区上流の高速道インターチェンジ付近の自動車洗車場から,車体に付着した凍結防止剤である塩化ナトリウムが流入したと推察された.調査河川上流,中流,下流の 3 箇所で実施した 2 年間に渡る移植調査の結果,洗車場に近い上流の調査区において,本種の成長はほとんど見られなかった.中流,下流の調査区における年間成長量は, 1.5 mm 前後であり,3~5 mm とする既往の知見より少なかった.本種の生息に影響を与える要因について,さらなる調査が必要である.

レポート
  • 桒原 淳, 今井 久子, 出繩 二郎, 櫻井 日出伸
    2021 年 24 巻 2 号 p. 331-345
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/04/20
    [早期公開] 公開日: 2021/09/20
    ジャーナル フリー

    臨港道路「霞 4 号幹線」の整備では,高松海岸や干潟の多様な機能の保全を目指し,各種の環境保全対策を実施した.これらのうち,整備に伴い撤去した範囲の海浜植生を復元する,全国的にも少ない技術事例を報告する.復元する植生の配置は,整備撤去範囲外に残る海浜植生との連続性や地形条件を考慮して決定した.また,復元に使用する海浜植物は,復元群落の面積と植栽密度から必要数量を算出し,整備撤去範囲外の海浜植生から調達した.また,復元工事の施工時には,施工業者に対し,復元作業手引書に基づいた現地指導を行った.

  • 海原 要, 野口 泰司, 清水 信一, 由井 正敏
    2021 年 24 巻 2 号 p. 347-354
    発行日: 2021/12/10
    公開日: 2022/04/20
    [早期公開] 公開日: 2021/12/10
    ジャーナル フリー

    新仙台火力発電所(宮城県仙台市)のリプレース工事における環境影響評価の結果を受けて,旧煙突に営巣する小型猛禽類ハヤブサへの環境保全措置として新煙突に人工巣を設置した.設置した人工巣の大きさは横幅 80 cm×奥行 55 cm×高さ 50 cm,設置位置は旧煙突の営巣時の高さを参考に 76 m とした.2015 年 10 月に人工巣を設置したところ,2016 年 8 月から利用が確認され,その後は 2017 年,2018年,2020 年及び 2021 年と 4 回繁殖し,そのうち 2017年,2020 年及び 2021 年の 3 回成功した.このことは,人工巣設置がハヤブサの保全措置として有効であることを示していると考えられた.

    人工巣の利用状況はセンサーカメラを用いて観察を実施した.センサーカメラによって得られた情報として,人工巣への渡来日(時刻),交尾,成鳥による巣内育雛行動(抱卵,抱雛,給餌),餌の搬入(回数,時間),卵数,雛数,巣立ち日等が挙げられた.しかし,人工巣から約 6 m 離れた場所からの広角撮影で人工巣内部に撮影死角が存在したため,卵が確認できない場合もあったほか,運ばれた餌の判別,産卵の開始日や間隔,孵化日等の把握は困難であった.

    センサーカメラによる調査は,電源や撮影容量,目的以外での作動等,いくつかの問題はあるものの,ハヤブサ人工巣での繁殖成功の確認は十分把握可能であり,比較的少ない費用で簡易的に実施できる方法として有効であると考えられる.

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