応用生態工学
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事例研究
英国における生態系サービス概念の国内政策への取込み
柏原 聡西 浩司
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キーワード: 生態系サービス, 英国, 政策
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2022 年 24 巻 2 号 p. 313-320

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抄録

本研究は,世界で最も早く国内版ミレニアム生態系評価を実施した英国を対象に,生態系サービスの概念が国内の政策や施策にいかにして反映されてきたものかを把握し,我が国における諸政策への生態系サービスの取り込みの参考とすることを目的とした.英国における生態系サービス概念の国内政策への反映は,国際的な動向に素早く反応し,生物多様性関連政策に生態系アプローチを早くから取り入れる政策を実行してきたことが大きい.特に UKNEA 以前では,2007 年に PSA28 とこれを受けた行動計画である「健全な自然環境の確保」,UKNEA の公表とほぼ同時に「白書」(本文参照), UKNEA 以降ではすべての政策策定から事後評価に至るまで網がかかる「緑本」,「赤紫本」の中に生態系サービスへの考慮を規定されたことが大きいと考えられた.一方,我が国では英国のような「緑本」,「赤紫本」のような仕組みはないが,生物多様性国家戦略,生物多様性地域戦略を「生物多様性という新たなプラットフォーム」(及川,2010)として有効に活用することにより,縦横断的な政策検討を実施することが可能になっている.次期国家戦略では「エビデンスに基づく政策立案(EBPM)を目指す」ことが課題とされているが,「未開拓の研究上のギャップ」と言われている「生態系サービスとその付加価値の影響を追跡すること」が可能となれば,国際的にも有益な事例となるとともに,生態系サービスの考え方が社会全般に浸透することにつながるものと思われ,次期国家戦略による諸政策への生態系サービスの主流化が期待される.

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