2023 年 25 巻 2 号 p. 179-188
ハマナスなどを保全するために防潮堤を約 50 m 陸側にセットバックした仙台湾南部海岸深沼北工区の一部(仙台市宮城野区岡田)の海岸において,保護上重要な植物や侵略的外来植物の種類や生育状況など植物多様性保全上の基礎情報を得るとともに,仙台湾における海岸植物の多様性の視点からこの海岸の重要性を評価し,セットバックの効果を確認することを目的に,植物相調査を行った.その結果,63 種の維管束植物の生育が確認された.23 種の帰化植物および逸出植物のうち,侵略的外来植物は 14 種であった(表 1).その中でオオハマガヤとイタチハギは調査地の海岸の生態系に悪影響を与えていると考えられ,特に対策が必要であると思われる.ハマナスは,元海側堤脚だった砂丘上の 1 箇所の約 30 m×15 m の範囲に群生し,毎年開花や結実が多く見られるのが確認された.このことから,セットバックを行った当初の目的のうち,少なくともハマナスの保全に関しては,十分に効果があったものと考えられる.海岸植物は,ハビタットが砂浜等とされる植物が 14 種,岩場等とされる植物が 1 種の合計 15 種が確認された.セットバックを行った海岸に,この地域に生育が期待される砂浜等の植物の全ての種の生育が確認された.そのため,この海岸をこのまま適切に保全することは,この地域の砂浜等の植物多様性上の意義が大きいと思われる.