応用生態工学
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原著論文
河川感潮域におけるモクズガニEriocheir japonica(de Haan)の着底場所と生育場所の環境条件
小林 哲
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2006 年 8 巻 2 号 p. 133-146

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抄録
河川感潮域の上流部は,モクズガニのメガロパが着底して変態し,稚ガニがしばらく成長する場所であり,モクズガニ個体群の維持に極めて重要な場所である.そこでモクズガニのメガロパの着底と稚ガニの生息場所として好ましい環境を調べるため,福岡県福津市の西郷川感潮域の上流部で3タイプ(石被度25%,75%および石+ヨシ株75%)に被度を変えた人工芝マット(30cm×30cm×厚さ1.5cm)を沈め,カニの密度を比較し環境選好性を明らかにした.メガロパの着底は感潮域最上流部の流路直下にある,常に速い流れが存在する早瀬状の環境に集中する傾向があり,メガロパに正の走流性があることを示していた.このため河川感潮域に建設された堰と魚道はモクズガニの分布様式に大きな影響を与えることが明らかとなった.変態後の稚ガニは,成長とともに着底場所から周囲へ分散する傾向がみられた.ヨシ類の株がある場合は石のみに覆われている場合よりも密度は高く,ヨシ類の株が稚ガニの生育にとって重要であることが推察された.その効果は早瀬よりも平瀬や淵状の環境において顕著であった.また今回の実験により,人工芝マットを用いた方法はモクズガニ個体群調査に対して極めて有効であることが示された.
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© 2006 応用生態工学会
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