応用生態工学
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事例研究
維持流量設定後における神三ダム直下の大きな淵での水温と溶存酸素量の改善
田子 泰彦辻本 良村木 誠一
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2006 年 9 巻 1 号 p. 63-71

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抄録
神三ダム直下の淵において, 無水区間が生じていた年および維持流量設定後の年における水質の変化を明らかにするために, サクラマスやアユの生息環境が最も悪化する8月に, 水温と溶存酸素量の測定を行った.
維持流量放流が行われていなかった1996年8月14日では表層の水温は29.3℃, 水深2mでは26.9℃あり, 水深4mでは急激に低下したものの21.8℃あった. 放流実施後の2004年8月25日では表層の水温は21.4℃で, 水深1mでは19.6℃に低下した. 溶存酸素は1996年8月14日では表層での9.2mg/Lから10m層の0.7mg/Lへと水深の増加とともに著しく低下した. しかし, 2004年8月25日では溶存酸素は表層から10m層まで9.3-9.5mg/Lで, ほとんど変動がなかった. この水温の低下と溶存酸素濃度の上昇は, 神三ダム湖中層付近の水温の低い水が直下の淵に放水されるようになり, 淵において水の混合が十分に起こっているためと考えられた.
サクラマスは冷水性のサケ科魚類で20℃以上の高水温には弱く, また, サクラマスやアユの生存には7mg/L以上の溶存酸素が必要とされることから, 維持流量の設定によって神三ダム直下の淵におけるサクラマスやアユの生息条件は著しく改善されたと考えられた. 現在の神通川では淵の数は極めて少なく, 神三ダム直下の大きな淵における生息環境の改善は, 淵と本流との魚類の移動がより自由になったことも加味すると, サクラマスやアユの資源増大に大きく寄与できるものと考えられた.
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© 2006 応用生態工学会
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