論文ID: 24-00008
本研究では,野川の上流域において,環境 DNA 調査と採捕調査を併用し魚類の生息状況を明らかにするとともに,両調査の特性を整理・比較した. 調査の結果,19 種類の魚類が生息していることが明らかになった.これらは主に河川の中流域に生息する魚類で構成されていた.中でもタモロコ,オイカワ,モツゴ,ヌマムツ,ドジョウ(類),ヨシノボリ類は採捕調査・環境 DNA 調査・河川水辺の国勢調査のいずれでも確認されており,このうちオイカワ,モツゴ,タモロコは環境 DNA 分析においても高いリード数が検出された.また,確認された魚類の中には,東京都のレッドデータブックに掲載されている絶滅危惧種や生態系被害防止外来種リストに掲載されている国外外来種も存在していることが明らかになった. 採捕調査では魚類 9 種類が確認されたのに対し,環境 DNA 調査では 18 種類が検出され,環境 DNA 調査は採捕調査を補完できる可能性が示唆された.採捕調査で確認された 9 種類のうち,8 種類は環境 DNA でも検出されたが,ヒガシシマドジョウは検出されなかった.本種は砂礫から砂泥底を好む底生魚類であり,また準絶滅危惧種であることから生息数が少なく,DNA が流下しにくかった可能性が考えられた. 本調査に基づき,環境 DNA 調査(MiFish 法)と採捕調査の特性を「試料採取」と「分析」の段階に分けて整理・比較し,それぞれのメリット・デメリットを明らかにした.水生生物のモニタリング調査では,両調査を併用することでより正確な魚種や希少種の生息状況,外来種の侵入が把握できると考えられた.今後,資源管理や生態系の管理・保全,生物多様性の保全に向けては,目的に応じた複数の調査・分析方法の使い分けや併用,また詳細な条件設定の検討を行うことで,より効率的で精度の高い結果が得られるだろう.