応用生態工学
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日本温帯河口・沿岸における潮間帯生息場の評価における課題
小山 彰彦
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論文ID: 25-00006

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抄録

日本国内における河口・沿岸域の生物多様性保全を目的として,本稿では潮間帯生息場,特に干潟と塩性湿地の定量評価に関する課題を論じた.干潟は 1945 年以前と比べると既に約 40%が消失しており,特に前浜で著しい.今後は,河川区間に位置する未評価の干潟を定量化する必要がある.河川区間に形成される礫質・砂礫質の潮間帯生息場は日本の地形や流域特性に応じたユニークな生態系を維持している可能性がある.しかしながら,近年展開されつつある生息場の評価体制に基づくと,このような潮間帯生息場は見逃されてしまうリスクを有する.一方,ヨシ原を含む塩性湿地は人為的な影響を受けて劣化・消失が著しいことは明らかではあるが,国内における具体的な減少の程度は不明である.よって,まずは効果的な保全・再生を計画するための基礎資料が不足している現状を解決しなければならない.塩性湿地面積と出現種数の間には有意な正の相関は認められず,小規模の塩性湿地も生物多様性の保全に寄与すると期待されるため,中小河川に位置する塩性湿地についても適切に定量評価を行うべきである.加えて,潮間帯生息場は生物環境および物理化学環境に応じた生物相が形成されるため,「干潟」や「ヨシ原」などの単一の評価項目では,適切に生物多様性を評価することは難しい.より詳細に潮間帯生息場,あるいは希少種の現況を定量化するためには,簡単であり,短時間でかつ低コストの技術を用いた,現場に適用可能な調査方法の確立が必須である.そのためには,新規的な調査道具や分析技術についてさらなる研究が望まれる.

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