抄録
湿地植生の遷移は自然再生事業において維持管理上重要な視点となる.しかし,抽水植物の拡大特性や遷移については不明の点が多いため,抽水植物間の競合の優劣を考慮し立地条件を把握することが重要な課題となっている.本研究は,日本産ガマ科3種(コガマ,ガマ,ヒメガマ)の地下部動態の相違からその生長戦略を探り植生管理に必要な知見を得ることを目的とした.
現地観測では,各器官毎の乾燥重量の季節動態,群落生産構造の調査(群落内の日射量と高さ毎のバイオマス計測),群落の密度,葉面積,植物体内に含まれるNの含有率を計測し生長戦略を分析した.また,より詳細な過程を推論するため,生長モデルによる解析を行った.
現地観測の結果,ガマ科のR/S比,Root/Rhizome比は,生育する湛水深と関係があり,深い湛水深で育つ種ほど地下茎が発達し,相対的に根の割合が少なくなることが明確となった.ガマとヒメガマの地下茎の栄養に従属する生長期間は土壌栄養状態が貧しいほど長いことが確認されたが,コガマの従属生長期はそれらよりも非常に短い.コガマとヒメガマの器官間の栄養輸送フラックスを光合成に対する割合で評価したところ,従属生長期における地下茎の利用は量・期間ともにヒメガマよりも少ないことが判明した.すなわち,コガマは地下茎の栄養に従属する割合は低く生育する地点を先取りすることを優先とした生長を行い,拡大能力で勝負するガマや,地下茎を大きく太らせることで深い湛水深にたえるヒメガマとは異なる戦略が確認された.ウェットランドを適切に維持管理するためには,種毎の地下部動態や生長戦略を把握する必要がある.