教育社会学研究
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論稿
〈いじめ〉をめぐる語りの構築過程:
流動的な語りから語りの一元化へ
梅田 崇広
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2018 年 103 巻 p. 69-88

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抄録

 本稿の目的は,生徒間の人間関係のトラブルの構築過程を,トラブルをめぐる立場の流動性との関連から明らかにすることである。この作業から,トラブルの延長線上に位置づく〈いじめ〉をめぐる立場の流動性という見方が孕む問題性について検討する。
 1980年代以降本格化したいじめ研究の中でも,「いじめ問題」の構築主義的な研究は,〈いじめ〉というカテゴリーが付与された事後の事件に対する社会的な言説や,教師の語り等について検討してきた。その一方で,〈いじめ〉というカテゴリーが付与される以前の当事者らの解釈プロセスは看過されてきた。そのため,本稿では〈いじめ〉というカテゴリーが付与されるまでの生徒間トラブルに焦点を当て,生徒間トラブルを当事者や第三者らによる解釈の抗争プロセスとして捉え直した。
 分析結果は次の通りである。まず,本稿の事例では,トラブルの〈被害者〉が次々に入れ替わり,最終的には〈被害者〉と〈加害者〉の立場が逆転してしまう現象が浮かびあがってきた。一方,そのトラブルの解釈共同体においては,立場が流動的であるどころか,〈加害者〉が一貫して〈加害者〉としてカテゴリー化され,トラブルの解釈共同体から排除されうる可能性が示唆された。
 以上の結果から,本稿では物語の多声性と立場の流動性という見方が孕む死角について指摘し,生徒間トラブルをめぐる物語の多声性,重層性を視野に入れた研究の必要性を指摘した。

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© 2018 日本教育社会学会
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