2021 年 108 巻 p. 141-161
「学校の管理下の災害」に対する補償・救済のために,日本スポーツ振興センターの災害共済給付制度がある。児童・生徒が死亡した場合に,この災害共済給付制度にもとづいて遺族に支給されるのが死亡見舞金という給付金である。
本稿では,〈子ども〉の自殺に対する死亡見舞金の給付はいかになされてきたのか,また,その制度はいかに変化してきたのかを問う。これらの点を問うことで,〈子ども〉の自殺をめぐる補償・救済の論理を検討し,〈子ども〉の自殺と学校の関係についての社会の認識を考察することが目的である。
分析部では,「社会問題の構築主義」の立場から,制度の運用に関わる以下の変化を明らかにする。第1に,1970年代後期,〈小学生〉による学校での自殺事件を契機に,「学校の管理下の災害」としての〈子ども〉の自殺が成立したこと。第2に,〈中学生〉の「いじめ自殺」事件を契機に,「学校の管理下の災害」としての自殺の範囲が拡大したこと。第3に,〈高校生〉の自殺に意志を想定する規定が争点化した結果,〈高校生〉による「故意」による自殺でも例外的に補償・救済の範囲に含まれる場合が見られるようになったことである。
以上の分析知見をもとに,〈子ども〉の自殺をめぐる社会の認識に変化が見られたこと,またそれが〈子ども〉の自殺という社会事象の「学校問題」化の具体的過程であることを論じる。