教育社会学研究
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論稿
常勤での多職種協働と教員役割
保田 直美
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2022 年 110 巻 p. 191-211

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抄録

 現在,学校に専門職を常勤で配置し,明確な業務の分担を行うことで,教員役割を限定し,その負担を軽減することが,「働き方改革」答申などで目指されている。これはメンバーシップ型の雇用慣行の学校に,ジョブ型のそれを持ち込むものであり,教職に関する研究でも,多職種協働がこれまでの包括的な教員役割を限定することが懸念されている。しかし,専門職論では,実際の職場では分業があいまいになり,職種間の役割が重複しやすいことも指摘されている。
 常勤での多職種協働は,実際に,役割の限定化を介して仕事の負担感を減らすのだろうか。中学校へのSC・SSWなどの常勤配置を進めているF市で,教員を対象に行った質問紙調査のデータを用いて,SEM(構造方程式モデリング)で検討した。その結果,協働の頻度が高まると専門職の配置により仕事に余裕ができると思うようになるが,それは役割の限定化の意識には媒介されないことが明らかとなった。
 ではなぜ,協働の頻度が高まると仕事の負担感が減るのだろうか。メンバーシップの意識を考慮に入れたモデルを検討したところ,教員が他職種にメンバーシップの意識を抱くこと,そして,メンバーシップの意識が他職種に自由裁量の余地を与えることが,両者を媒介していた。
 以上から,常勤での多職種協働においては,教員役割の限定化よりも職種間での役割重複が生じている可能性が高く,従来の教員役割の包括性は損なわれにくいと考えられた。

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© 2022 日本教育社会学会
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