2023 年 113 巻 p. 49-69
本稿の目的は,一斉指導における教示理解のありようを,幼稚園でしばしば観察される園児に否定をさせる質問(否定誘発質問)の用いられ方を明らかにすることを通して検討することである。
一斉指導において,教え手には,いま行っている教示を学び手が正しく理解し ているかどうかを把握する必要が生じる。このような「教示理解の確認」として,「教師の側があえて間違える」ことを通して,学び手が「わかっているかどうか」を確認する方法が知られている。本稿はこうした実践知に相当する質問形式として否定誘発質問に着目し,その幼稚園年少級の製作場面での用いられ方を分析した。
分析知見は次の三点である。第一に,否定誘発質問は,事前の教示との差異が可視化された状態が示されることで,否定の応答を促すものになっている。正しい状態からの差異を主張する発話はそれ自体で一定の教示理解を示すものであるうえ,否定の応答から教示の核心部分を更に問うことも可能となる。第二に,否定誘発質問による教示理解の確認は,教示される知識の伝達を公然化し,個々の園児の理解ではなく,園児集団の理解の確認が行われる。第三に,否定誘発質問は,教示理解の確認だけでなく,教示活動への園児の参与の促しとしても用いうる。これらを踏まえ,否定誘発質問を用いた教示理解の確認が,幼稚園年少級の教育場面という活動の文脈における合理性と幼児の社会化における意義を持つことを論じた。