2010 年 86 巻 p. 113-136
本稿は,1988年〜現在までの教師の社会学に関するレヴューである。
本稿の前半部分では,この20年間における「教師の社会学」における全体的な傾向性と新たに登場してきた方法の特徴について概観した。三つの重要な変化がみられた。第一は,教師研究に関する普遍的視座が失われたこと。第二は,研究手法の多様化が進んだこと。第三は,他のさまざまな研究領域との境界が曖昧化したことである。新しいアプローチとしては以下が注目される。
1.教師に「なる」方法の研究としてライフコースアプローチ。
2.社会の中の教師を観察する方法としてディスコース研究。
3.教師の日常へのアプローチとして,ワーク研究。
4.日本の教師の特徴を解明する方法として,国際比較研究。
5.問題としての教師へのまなざしとして,学校臨床社会学研究。
本稿の後半部分では,教師の社会学において明らかにされてきた基本的な知見について概観した。特筆すべきは次の二点である。第一は,教師の教育行為と社会・制度・理念を媒介する厚みを持った「教員文化」を戦略的なターゲットとする研究の蓄積が著しいこと,第二は,教師が教育過程(教育者的・理念的文脈)と労働過程(職場の条件,職業集団としての生き残り,雇用関係など)の二重化された文脈の交点に置かれていることに着目し,そうした二重性・ジレンマに派生する問題を,日本の学校制度や社会構造の特質,あるいは社会変動や教育改革と連動させつつ,解明する関心を巡って展開してきたことである。