2010 年 86 巻 p. 159-178
本論文は,少年非行がこれまでにはみられなかった診断で説明・解釈されつつあることに着目し,実践家(家庭裁判所調査官,法務技官,法務教官)が医療的・非医療的な解釈や実践を構成していく過程を明らかにした。研究方法は,実践家17名へのインタビュー調査である。
第1節は,医療化と医療の不確実性に関する先行研究を概観し,非行の解釈や実践に医療と非医療が混在していることを示した。そして,諸障害が矯正の現場で普及した背景を整理した。非行の医療化は,医療の不確実性が実践家によって運用・管理されることで進行するため,それらを分析する必要があった。
第2節は,インタビュー調査の概要を提示した。
第3節では,矯正の現場に医療的な解釈が介入する過程を概観し,そこでみられる不確実性の特徴とそれらの運用・管理のされ方を検討した。第一に,非行少年は新しい診断で解釈されていたが,実践家は以前から少年を経験に基づいて医療的に解釈・対処しており,矯正における医療化はゆるやかに進んだ。第二に,非医療的な要素は,医療が介入した後も,医療の不確実性として表出した。それは,医学上の不確実性と組織上の不確実性に類型化できた。しかし,実践家はそれらを肯定的に意味づけたり,医療と非医療的な要素を戦略的に使い分け,医療的な解釈を実践の資源として用いていた。このように,不確実性が管理・運用される過程で構成されるものとして医療化現象を捉えていく必要がある。