教育社会学研究
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論稿
公立中学校における「現場の教授学」
──学校区の階層的背景に着目して──
伊佐 夏実
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2010 年 86 巻 p. 179-199

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抄録

 本研究の目的は,異なる社会経済的背景をもつ2つの公立中学校を対象にした分析から,「現場の教授学」を形作る要因としての階層文化の影響に焦点をあて,それらと「学校のコンサマトリー化」の関係性について検討することである。
 対象となった北中と南中ではそれぞれ,生徒や保護者が異なる特徴をもつものとして理解され,こうした教師の解釈によって「現場の教授学」は構築されている。教師と生徒は互いにあまり立ち入らず一定の距離を保ちながら,教師による生徒への強制や命令的コントロールは極力避けられるべきものとして捉えられている北中に対して,南中では,教師が主導権を握り,生徒に対して体当たりで勝負することが求められる。ここから,北中では,「コンサマトリー化」と呼ばれる現象が進行しつつあるようにも見えるが,南中では,そうした図式は当てはまらないことがわかる。
 このような両校の違いについては,次のように理解することができる。まず,市場化や現代的な人間関係上の規範といったポストモダンな変容を学校にもたらしている社会的要因は,特に中産階級層において浸透してきており,そうした価値が学校に持ち込まれる際に生じる階層差によって,「学校のコンサマトリー化」の進行には違いが生じるということ。さらには,生徒の文化に歩み寄る形で構築される「現場の教授学」の性質が,「コンサマトリー化」を促進する働きをもっているということである。

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© 2010 日本教育社会学会
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