2010 年 86 巻 p. 75-96
本稿は,東京都立高校をフィールドに,「教職のメリトクラシー化」の改革動向をめぐる教師の攻防に注目することによって,教職という仕事のアンビバレントな社会的特質を読み解く試みである。以下では,東京都の教員施策と管理職・主幹職選考の現状をおさえた上で,教師を対象としたインタビューデータを分析する。
教職という仕事は,二重の意味において,アンビバレントな社会的特質を有している。第一に,この仕事は,変容しつつある社会的要請(「外の目」)と,教師が教職経験の中で積み上げてきた経験知(「内の目」)との間の綱引きの上に成り立っている。第二に,学校という場は,人材の選抜・配分機能を担う側面(機能)のみならず,教師と生徒のコミュニケーションによって成り立っているという側面をあわせ持っている。教師は,多かれ少なかれ,以上の特質に起因する綱引きの上に立って仕事をしてきている。
しかし,近年の改革動向は,教職という仕事のアンビバレントな社会的特質の片方の側面(「外の目」/人材の選抜・配分機能を担う側面)にのみ光が当てられ,もう片方の側面が無視されていると,教師たちは感じ,抵抗感を抱いている。一方で,教職という仕事のアンビバレントな社会的特質に迫りくるこのような力関係の変容は,教師がこの綱引きの上に立ち続けることを難しくさせている。最後に,教師がそこに踏みとどまって立ち続けることの意味を分析した上で,それを保証するためのしくみについて検討を加える。