教育社会学研究
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論稿
サポート校生徒と大学進学行動
―高校中退経験者の「前籍校の履歴現象効果」に着目して―
内田 康弘
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2016 年 98 巻 p. 197-217

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抄録

 本稿の目的は,高校中退経験を持つ私立通信制高校サポート校(以下,サポート校)生徒の大学進学行動の事例に着目し,サポート校を経由した非直線的な大学進学行動(教育達成)の実態とその構造を明らかにすることである。そのため,本稿ではサポート校X学院V校生徒の大学進学行動に焦点を当て,「前籍校の履歴現象効果」という観点から分析を試みた。
 本稿の主な知見は以下の3つである。第1に,高校中退経験を持つ生徒によるV校経由の大学進学行動の際,葛藤を経て離脱した前籍校という特性が,V校において残存効果を持ち,新たな仲間集団での相互作用を通じて大学進学アスピレーションの(再)加熱を支える独自の資源として機能していたこと。第2に,V校での進路指導場面においても前籍校という特性が機能し,スタッフは各生徒の前籍校の履歴現象効果を巧みに活用して志望大学のランクをそれぞれ調整し,V校の進路資源を傾斜的に配分しながら,生徒を皆「納得」させて大学進学へと導いていたこと。第3に,そうしたV校での学校経験を経て大学合格を達成した生徒たちには,高校中退経験そのものを各個人の描く「成功物語」獲得のための進路変更として積極的に捉え直すという自己再定義過程があったこと,である。
 これらの検討を通じて,サポート校が教育達成のためのオルタナティブ・トラックの一つとして機能している現状を明らかにするとともに,残された課題を考察した。

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© 2016 日本教育社会学会
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