抄録
菜食中心の食生活の栄養学的意義を検討するため, 肉食忌避の戒律を重んじている臨済宗の某禅寺の僧侶の食生活を調査し, 下記の知見が得られた。
1) 肥満者および肥満傾向者は9名中3名認められ, いずれも年齢30歳以上の者であった。
2) エネルギー, 鉄, ビタミンB1, ビタミンCは全員所要量を充足していたが, 脂質, ビタミンB2は全員所要量を充足せず, 特に脂質の充足率は低かった。たん白質, カルシウム, ビタミンAは半数以上の者が充足していなかった。
3) 獣鳥鯨肉類は禅寺内および禅寺外でも摂取せず, 動物性食品としては卵および魚介類を摂取していた。魚介類および卵類は寺院内でのみ摂食した者に比して, 法要等で外食した者のほうがその摂取量が多かった。これは, 寺院内では菜食中心の食生活で, 魚介類, 卵類の摂取量が少ないが, 法要等ではその摂取頻度が増加するためである。また, たん白質源である豆類の摂取量が多く, 穀類, いも類, 砂糖類, 菓子類等の糖質含有量の多い食品の摂取量が多かった。
4) 穀類エネルギー比と糖質エネルギー比が高く, たん白質エネルギー比, 脂質エネルギー比および動物性たん白質比が低かった。
5) 植物性食品の摂取比率は86.3~98.9%と菜食中心の食事内容が明らかとなった。
以上のことから, 禅寺の僧侶は動物性たん白質は著しく少ないが, 植物性たん白質を十分に摂取し, エネルギー源としては穀類を偏重している菜食中心の食生活内容であることが明らかとなった。今後この食生活を分析し, 健康増進, 成人病予防のための食生活改善のための資料として検討していきたい。さらにこのような食生活パターンを続けている僧侶の健康状態についても調査し, 食生活と健康との関係についても検討したいと考えている。