2018 年 13 巻 2 号 p. 420-438
モンゴル西部ホブド県のウリャンカイ系遊牧民は,長年のユキヒョウ棲息圏での暮らしの中で,ユキヒョウに関する多様な儀礼や精神文化を発達させてきた.本研究は,地域住民とユキヒョウとの関係から紡がれた民間伝承・伝説・語りなどの「伝承誌(オーラルヒストリー)」を文化遺産として定義し,ユキヒョウの保全生態に対する遊牧民の能動的な関与を促す社会環境の整備を目的としている.本調査は2016年7月19日~8月22日の期間,ホブド県ジャルガラント山地,ボンバット山地,ムンフハイルハン山地のユキヒョウ棲息圏に居住する117名の遊牧民から,「ユキヒョウ狩り」の実猟経験や,狩猟儀礼「ユキヒョウ送りの儀」などのオーラルヒストリーを構成的インタビューにより収集した.ユキヒョウの科学的調査だけではなく,その文化的・社会的コンテクストの解明は,ユキヒョウと遊牧民の関係改善とサステイナブルな共存圏の確立に貢献するものと考えられる.