ギリシャの水産物流通をめぐっては,漁業経営の小規模性や,長大な海岸線と多くの島嶼から成る国土の地理的特徴により,流通システムの断片化やインフラ整備の遅れが生じている.本稿では,ギリシャにおける水産物流通の現状を把握するため,各地の水産物が集積する首都アテネの水産物市場に着目し,流通水産物の内容や鮮魚店の経営形態,水産物の流通経路などについて報告する.調査の結果,アテネ市内において計42科60種の水産物の取扱いを確認した.産地は国内の広範囲にわたっており,海外からの輸入水産物も多くみられた.水産物は大半がアテネ近郊のケラツィニ港を経由していたが,鮮魚店によっては個別に流通ルートを有していた.市場における取扱水産物の傾向と多様性には,生産現場における漁獲魚種・漁法の多様性だけでなく,産地の広がり,鮮魚店の経営戦略,国内経済の動向,ギリシャ社会の文化・宗教的側面などが反映されていた.