本稿では,兵庫県南あわじ市南淡漁協の水産物流通を事例に,販路開拓の歴史と集出荷に関わる諸活動を考察する.南淡漁協では,長らく出荷先が二つの流通業者に限られていた.しかし,2012年にその片方のS水産が倒産すると,漁業者は販路の減少による魚価の低下を懸念するようになった.そこで,漁協は,新たな試みとして自らで水産物を荷受けして,関西地方から北関東の卸売市場までの幅広い地域へ水産物を出荷する取組みを始めた.販路はこれまでS水産が構築してきたものを利用した.一方,集出荷作業は地元の労働者が,配送作業はS水産の家族企業であるS運輸が担った.遠隔地への水産物の配送は,さまざまな主体が関わり,彼らの活動が生産地から消費地まで連鎖することで可能となった.