本稿では,2019年台風第19号による大規模な浸水被害を事例として,地理的条件が住民の事前避難に寄与した要因を明らかにした.茨城県水戸市の那珂川右岸を事例対象地域として,アンケート調査によって,住民の当時の避難行動等に関する情報を得た.はじめに,以前から検証されてきた住民の基本属性等,情報取得,避難躊躇,事前対策の4側面の計43項目について,事前避難の有無に与える影響を明らかにした.次に,個々の住宅を単位として,地理的条件を定量化した変数を加えて分析を行った.その結果,自宅立地点の標高が低いほど,また,標高20 m地点までの道路距離が長いほど,住民は事前避難により積極的であることが明らかになった.事前避難をより促進させるためには,浸水の危険性がある範囲内で標高が相対的に高い場所の居住者,台地等の高所に比較的近い場所の居住者に,重点的に働きかけることが肝要である.