2024 年 19 巻 1 号 p. 98-113
電子商取引(EC)は,日常の購買行動に変革を起こしている.本研究では,日本国内の食品EC利用者の特徴について,主に空間的拡散仮説と効率性仮説という地理的な側面から検討した.空間的拡散仮説は都市部から地方へEC利用が拡散するという仮説であり,効率性仮説は実店舗へのアクセスが不便な地域でEC利用が多くなるという仮説である.χ二乗検定による全国スケールの分析では,食品ECの利用に有意な地域差がみられ,首都圏での利用が多かった.個人と地域の二つのレベルを考慮したマルチレベル分析の結果,食品ECの利用に関する地域差は,人口やネットスーパーの数といった地域レベルの変数と関係していることが分かった.このことからEC利用の地理的側面に関わる二つの仮説のうち,空間的拡散仮説が支持される.また,東京特別区スケールの分析では,食品ECの高頻度での利用について,都心・副都心の区とそれ以外の区で差があることが分かった.