2025 年 20 巻 1 号 p. 221-233
本研究では,長崎県松浦市における「アジフライの聖地」PR協力店のアジの仕入れ方法の考察を通して,飲食店が,不安定な食料供給の状況下でいかにして消費者へ食事を提供しているのかを明らかにした.アンケート調査からは,PR協力店には,鮮魚・活魚の調理にこだわりをもつ飲食店だけでなく,冷凍品を仕入れて加温・保温して販売する飲食店も加入していることが判明した.このうち,供給が不安定な鮮魚・活魚を仕入れる店舗の多くが複数の仕入れ先を確保していた.このように協力店が自身の経営に適したアジの仕入れ方法を選択できる背景には,遵守すべき決まりとして定められた「アジフライ憲章」の規定があった.すなわち,アジフライ憲章では,調理方法と仕入れ方法が限定されておらず,各店舗がノンフローズンかワンフローズンかを選択できたり,水揚げ地と漁獲地を広く解釈できたりする.結果的に,協力店はそれぞれの調理方法に合わせて,さまざまな形態のアジを仕入れられるのであった.フードツーリズムが持続的に運営されるには,消費者へ安定的な食事の提供が欠かせない.本研究からは,各主体による食材の仕入れ・調達に焦点を当てたフードツーリズム研究の重要性が指摘できる.