学会誌JSPEN
Online ISSN : 2434-4966
研究報告
宿泊療養中の新型コロナウイルス感染者を対象とした体調の把握とアミノ酸シスチン・テアニン含有食品の使用感調査
西川 祥子栗原 重一長尾 健児
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2022 年 4 巻 3 号 p. 145-150

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Abstract

【目的】宿泊施設で療養する新型コロナウイルス感染者の体調を把握し,アミノ酸シスチン・テアニン含有食品の使用感を調査する.【対象および方法】神奈川県の宿泊施設の新型コロナウイルス感染者に対し,シスチン・テアニン含有食品を任意で15日間摂取(1日1包)してもらい,その使用感と体調に関するWEBアンケートを実施した.【結果】67名がアンケートに回答し,うち46名が15日間のアンケートを完了した.体調に関する違和感の保有率は,調査期間中アンケート開始時から漸減した.最も頻度の高い違和感は嗅覚であった.シスチン・テアニン含有食品の使用感は肯定的であった.【結論】宿泊施設で療養する軽症の新型コロナウイルス感染者にも,生活に影響し得る症状があり,対策が必要であることが分かった.その対策として,シスチン・テアニン含有食品のような栄養学的アプローチが可能であると考えられ,療養者における忍容性も確認できた.

目的

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行は,日本においても多大な影響をおよぼしている.無症状や軽症の新型コロナウイルス感染者には,医療が届きにくく,COVID-19の重症化や長期化を予防するために食事や感染者自身の抵抗力を高めるような食品を用いた栄養学的アプローチも期待されている1)

アミノ酸であるシスチンとテアニン(γ-グルタミルエチルアミド)は,それぞれ体内でシステイン,グルタミン酸に変換され,生体内の強力な抗酸化物質であるグルタチオン(以下,GSHと略)の前駆体として利用されることが報告されており2,3),成人男性の冬期風邪様症状の緩和作用などが報告されている46).一方,COVID-19の症状の発生メカニズムには,GSHが関与していることが示唆されている79)

我々は,将来シスチン・テアニン含有食品を用いた新型コロナウイルスの感染防御や症状の抑制に関する臨床試験の実施を想定し,まずは,宿泊施設で療養する新型コロナウイルス感染者における体調の把握を実施することとし,その際に当該食品の受容性についても神奈川県の協力のもと調査することとした.

対象および方法

本調査はヘルシンキ宣言に則り,「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針(文部科学省・厚生労働省 平成26年12月22日制定)」を遵守し,味の素(株)「人を対象とする試験審議委員会」の承認を受け実施した.(承認番号2020-11)

1. 実施時期

2021年1月~5月

2. 調査対象

神奈川県指定の宿泊施設(5か所)で療養する新型コロナウイルス感染者約2,500名(神奈川県HP掲載情報を用いて,療養期間を10日と仮定し算出)を対象とした.

3. 調査方法

3-1. 調査案内

シスチン・テアニン含有食品(1包あたりシスチン700 mgとテアニン280 mgを含む顆粒,1日1包摂取)を,宿泊施設に合計1,000箱設置し,療養者が自由意思で手に取る形で配布した.提供食品を含む配布セットにアンケートの協力募集のチラシを同封し,提供食品の15日間の摂取と回答者別の二次元バーコードを介したWEBアンケートの回答を依頼した(図1).

図1.アンケート案内チラシ

3-2. アンケート

1日目に参加者の背景情報を取得し,その後15日間,提供食品の服用確認,発熱,食欲,睡眠状況,その他感じている違和感と,その程度を質問した(表1上段).また,15日目に,調査初日と比べた体調の変化実感および提供食品の味や飲みやすさの情報を収集した(表1下段).

表1. アンケート質問票
1–15日目アンケート
(1日目のみ)Q 年代をお答えください 10代/20代/30代/40代/50代/60代以上
(1日目のみ)Q 性別をお答えください 男性/女性/その他/答えたくない
(1日目のみ)Q 本日は,新型コロナウイルス陽性と診断されてから何日目ですか.診断日を1日目としてお答えください ※確定日がわからない,忘れた場合は「わからない」をお選びください ( )日目/わからない
Q 今,37.5度以上の熱はありますか はい/いいえ
Q 今,食欲はありますか ある/あまりない/全くない
Q 昨晩の睡眠状況を教えてください いつもより眠れた/いつも通り眠れた/いつもより眠れなかった
Q 本日の状態で,あてはまるものを全てお選びください 息苦しいだるい味の感じ方に違和感があるニオイの感じ方に違和感がある関節や動く時に違和感がある気分が落ち込むその他(4つまで)
Q (本日の状態で)選択いただいたもので,どの程度感じていますか 少し感じる/かなり感じる
終了時アンケート
Q アンケート開始時と比べて,体調に変化はございましたか.実感として近いものをお選びください だいたい良くなったと思うあまり変わらず特に悪くない今も違和感があり,あまり変わっていない悪くなったと思うその他
Q シスチン&テアニンの味はいかがでしたか おいしかったおいしいとは思わなかったが許容できたおいしくなかった/嫌いな味だったアンケート期間中に全く飲んでいない
Q シスチン&テアニンの飲みやすさはいかがでしたか 飲みにくかったどちらでもない飲みやすかった

実際の回答画面では,ラジオボタン選択あるいは自由記載で回答を得た

結果

1. 参加者背景

同意撤回をした1名を除き,複数日回答した67名を解析対象とした.うち46名は15日間のアンケートを完遂した.解析対象のうち,男性は51%,女性は49%であった(図2A).年代別では20代(39%),30代(24%),40代(22%)の順に多かった(図2B).また,多くは感染が確認されてから2週間以内で回答を開始していた(図2C).

図2.回答者の属性

A 性別内訳

B 年代別内訳

C 回答開始日(陽性確認日からの経過日数)

2. シスチン・テアニン含有食品の使用感

15日間のアンケートを完遂した46名全員が,シスチン・テアニン含有食品を毎日摂取したと回答した.当該食品の味は,肯定的な意見(「おいしかった」および「おいしいとは思わなかったが許容できた」)が94%,飲みやすさは,「飲みやすかった」が87%であった(表2).

表2. シスチン・テアニン含有食品の使用感に関する集計結果
シスチン・テアニン含有食品の味の評価
人数 割合
おいしかった 21 46%
おいしいとは思わなかったが許容できた 22 48%
おいしくなかった/嫌いな味だった 3 7%
アンケート期間中に全く飲んでいない 0 0%
シスチン・テアニン含有食品の飲みやすさの評価
人数 割合
飲みにくかった 2 4%
どちらでもない 4 9%
飲みやすかった 40 87%

3. 体調に関する集計結果

1日目において,37.5°C以上の発熱があったのは1%であった(図3A).また,食欲は,「ある」が84%で,「あまりない」が15%,「全くない」が1%であり(図3B),前日の睡眠は,「いつもより眠れた」が9%,「いつもどおり」が72%,「いつもより眠れなかった」が19%であった(図3C).

図3.アンケート1日目の発熱,食欲,睡眠の状況

A 37.5°C以上の発熱

B 食欲

C 前日の睡眠の状況

発熱,食欲,睡眠以外の違和感は,1日目では34%が「なし」と回答し(図4A),15日目では,76%が違和感は「なし」と回答した(図4B).1日目と比較した15日目の体調変化実感は,「だいたい良くなったと思う」が50%,「あまり変わらず特に悪くない」が37%,「今も違和感があり,あまり変わっていない」が9%,その他(判断できない,わからない)が4%で,「悪くなったと思う」と回答した人はいなかった(図4C).

図4.体調の違和感および変化実感に関する集計結果

A 1日目の違和感の個数

B 15日目の違和感の個数

C 1日目と比較したときの15日目の体調変化

*1:4~6個  *2:判断できない,わからない

4. 違和感の種類別集計結果

1日目では,「ニオイの感じ方」が回答者全体の31%(「少し感じる」7%,「かなり感じる」24%)で最も頻度が高かった.(図5A).また,アンケートを実施した15日間を通して,各項目の違和感の頻度は,いずれも減少傾向で推移していた.(図5B).

図5.違和感の種類別集計結果

A 1日目の回答者に占める違和感の種類と程度

B 15日間の割合推移(*2)

*1:その他:低体温1名,耳鳴り1名  *2:自由記載を除く6項目のみの集計を示す

考察

本調査は,宿泊施設で療養する感染者の実態を,自治体の協力を得て初めて把握した調査と考えられる.

本調査でも,既報10)同様に,嗅覚や味覚,倦怠感といった症状の頻度が高く,一部はその違和感が強く感じられていた.このことから,無症状あるいは軽症であっても,COVID-19の重症化や長期化を予防する必要性は高いと思われる.

調査期間中,2~3人に1人(約40%)がシスチン・テアニン含有食品を手に取ったと推定された.また,本調査は,毎日提供食品を摂取しアンケートに回答するという負担感がある条件だが,回答を開始した67名中,約7割の46名が15日間のアンケートを完遂した.さらに,アンケート開始時に嗅覚や味覚に違和感があった療養者が3割程度いたが,提供食品の味や飲みやすさに対する否定的な意見は数名で,特に嗅覚や味覚の違和感が摂取に影響をおよぼすことはなかったと推察される.これらシスチン・テアニン含有食品に対する反応から,本食品の摂取は,概ね忍容性があったと考えられる.

一方,今回の調査の限界として,比較となる対照群がないこと,提供食品の摂取は本人の回答で確認され確実性が乏しいこと,回答を開始した参加者のうち3割程度が15日間のアンケートを完遂できなかった(原因は未調査であるため不明)ことなどに留意する必要がある.

本調査において,体調の違和感の保有率は,15日間アンケートの前後で約64%から約24%に漸減していたが,COVID-19の病勢が衰えるのに伴う結果である可能性も否定しきれない.今回は,比較となる対照群はなく,シスチン・テアニン含有食品の摂取により症状が早期回復したかどうかを評価することはできないため,今後,対照群を設定した無作為化比較試験の実施が望まれる.

以上より,医療介入が十分に実施されない無症状や軽症のCOVID-19感染者の症状重症化や長期化の予防に,今回忍容性があると思われたシスチン・テアニン含有食品のようなサプリメントの摂取や食生活の改善といった栄養学的アプローチが有用である可能性があり,積極的なエビデンス構築が望まれる.

結論

無症状あるいは軽症の新型コロナウイルス感染者において,シスチン・テアニン含有食品の摂取は忍容性があると思われた.医療介入が十分実施されない無症状あるいは軽症の感染者においても,症状の重症化予防や長期化に対する有効な対策の構築が望まれ,本調査で忍容性が確認されたシスチン・テアニン含有食品のような栄養学的アプローチの可能性を検討する必要があると考えられた.

謝辞

本調査にご協力いただいた神奈川県,また,本調査の計画にご助言いただきました和田道彦氏(慶應義塾大学医学部臨床研究推進センター特任教授)および吉元良太氏(ライフデザインR合同会社)に心より感謝申し上げます.

 

著者は全員味の素株式会社の従業員である.他に申告すべき利益相反はない.

引用文献
 
© 2022 一般社団法人日本臨床栄養代謝学会
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