2023 年 5 巻 1 号 p. 49-53
【目的】入院患者の簡便な栄養スクリーニング方法として,主観的包括的指標(Subjective Global Assessment;以下,SGAと略)を基準としてControlling Nutritional Status変法(CONUT変法;以下,変法と略)の有用性を検証し,さらに変法をベースに,より良いスクリーニング方法を作成することを目的とした.【方法】変法とSGAの栄養評価の一致度および関係,変法スコアのカットオフ値の検討,変法と体重or食事量減少とを組み合わせた指標とSGA中度不良以上との関係を解析した.【結果】変法とSGAの栄養レベルの一致度はκ = 0.122,相関はrs = 0.276であった.SGA中度不良以上となる変法スコア≥5の感度は81.8%,特異度は41.8%(p = 0.042)であり,変法スコア≥5かつ体重or食事量減少有の組み合わせでの感度は77.3%,特異度は67.1%(p < 0.001)であった.【結論】SGAを基準とした場合,変法単独のスクリーニングでは特異度が低かったが,変法に体重減少or食事量減少の有無を組み合わせることで特異度が上昇し,簡便で有用なスクリーニング法となると考えられた.
日々の血液検査データおよび患者状態から,栄養不良の入院患者をスクリーニングし,早期に栄養療法を行うことは重要である.しかし,当院では病棟の栄養スクリーニングにおいて,栄養の知識が乏しいスタッフの主観に頼る部分も多く,適切に機能していない実態があり,簡便な栄養不良入院患者のスクリーニング方法が必要と考えた.
先行研究にて,入院中頻回に測定される血液検査データだけで求めることができるControlling Nutritional Status変法(CONUT変法;以下,変法と略)を開発した(表1)1).変法は,CONUT法2)の評価項目である総コレステロールを,ヘモグロビン濃度(以下,Hbと略)に代替えした指標であり,CONUT法との間に高い一致度がある1).しかし,先行研究では変法が栄養スクリーニングに有用であるかの検討は行っていない.そこで,現在広く用いられている栄養評価法である,主観的包括的指標(Subjective Global Assessment;以下,SGAと略)3)を基準として変法の有用性を検証した.
正常 | 軽度不良 | 中度不良 | 重度不良 | |
---|---|---|---|---|
血清アルブミン値(g/dL) | ≥3.50(0) | 3.00~3.49(2) | 2.50~2.99(4) | <2.50(6) |
総リンパ球数(/μL) | ≥1,600(0) | 1,200~1,599(1) | 800~1,199(2) | <800(3) |
ヘモグロビン濃度(g/dL) | 男性 ≥13.0 女性 ≥12.0(0) |
男性 10.0~12.9 女性 10.0~11.9(1) |
8.0~9.9(2) | <8.0(3) |
CONUT変法スコア = Albスコア + TLCスコア + Hbスコア | ||||
栄養不良レベル | 正常 | 軽度不良 | 中度不良 | 重度不良 |
CONUT変法スコア | 0~1 | 2~4 | 5~8 | 9~12 |
本研究の目的は変法とSGAを比較することにより,変法の栄養スクリーニングにおける有用性を明らかにし,変法スコアの栄養レベル判定におけるカットオフ値の見直しを図り,さらに変法をベースにより有用なスクリーニング方法を作成することである.
2019年9月17日~2019年9月23日に佐久総合病院および佐久医療センターに入院中で,血液検査の生化学と血算が同時に依頼された20歳以上の患者中,本人もしくは家族から口頭同意が得られた患者を対象とした.なお,一週間以内の手術や輸血,急変の有無についても調査したが,全ての入院患者に栄養スクリーニングは必要と考えたため,背景による対象の除外は行っていない.
2. 方法 1) 対象への栄養状態に関する質問対象への同意取得時に,体重減少と食事量減少についての質問をし(表2),回答を得た.
1.最近3〜6カ月間で意図しない体重の減少の有無 |
(あった場合はわかる範囲で減少前の体重も聞く) |
□あり(減少前の体重 約 kg)□なし □わからない |
2.普段と比べての最近5日間の食事の摂取の変化 |
□変わらない,普段より増えた □普段より減った |
□ほとんど食べれていない □わからない |
必要なデータを欠くことなく収集するため,変法に必要な検査項目である血清アルブミン(以下,Albと略),総リンパ球数(以下,TLCと略),Hbのうち測定されていない検査項目がある対象に関しては残余検体を用いて追加検査を行った.また,血液検査日の2週間以内の体重測定がない対象については,体重測定を行った.
3) 体重・食事量減少およびSGAの評価について体重減少と食事量減少の有無およびSGAについては,日本臨床栄養代謝学会認定のNST専門療法士7名が,対象の質問への回答および電子カルテ内の情報から評価した.なお,Detskyらは身体所見として,皮下脂肪厚と骨格筋減少も重要な因子と報告しているが3),当院ではそれらを日常的に測定や評価はしていないことから,本研究のSGAの評価には不十分な点があり,あくまでスクリーニングの指標とした.
4) 変法スコアの分布変法スコアの分布をヒストグラムで求めた.
5) 変法とSGAの栄養レベルの一致度および関係SGAの栄養レベル判定(正常,軽度不良,中度不良,重度不良)と,変法の栄養レベル判定との一致度を,κ係数を用いて解析した.また,関係についてもSpearman相関係数で解析した.
6) 変法スコアカットオフ値の検討SGAでの評価を基準とし,ROC曲線を用いて中度不良以上となる変法スコアのカットオフ値の見直しを行い,カットオフ値の感度や特異度,AUCを求め,χ二乗検定を行った.
7) 体重減少or食事量減少の有無,変法との組み合わせとSGAの比較体重減少or食事量減少の有無,変法スコア≥5かつ体重減少or食事量減少の有無の組み合わせにおいてSGAで正常と軽度不良群,中度不良と重度不良群に分けた2群との比較を行い,感度と特異度を求め,χ二乗検定を行った.
8) 統計処理統計解析はJMP ver. 13(SAS社)を用い,p < 0.05を有意差ありとした.また,本研究は佐久総合病院グループ臨床研究審査委員会の承認(管理番号R201905-01)を得て行った.
対象は101名,年齢は27歳~102歳であり平均は70.6 ± 16.8歳(MEAN ± SD),男性57名,女性44名であった.対象中,体重減少ありが48名(47.5%),食事量減少ありが49名(48.5%),検査日前の一週間以内に手術ありは9名(8.9%),輸血ありは15名(14.9%),急変した患者はいなかった(表3).
年齢(歳) | 70.6 ± 16.3(mean ± SD) |
性別(男:女) | 57名:44名 |
体重減少あり | 48名(47.5%) |
食事量減少あり | 49名(48.5%) |
一週間以内の手術あり | 9名(8.1%) |
一週間以内の輸血あり | 15名(14.9%) |
一週間以内の急変あり | 0名(0.0%) |
対象の血液検査の測定率は,Hbは100.0%,TLCは91.1%,Albは84.2%であった.身長はすべての対象者で測定されており,体重の測定率は92.1%であった(表4).
ヘモグロビン濃度 | 100.0 |
総リンパ球数 | 91.1 |
血清アルブミン | 84.2 |
体重 | 92.1 |
身長 | 100.0 |
変法スコアの分布はスコア5.3 ± 3.0(MEAN ± SD)であり,栄養レベル判定で中度不良となるスコア7が16名と最も多かった(図1).
変法のレベル判定で正常および軽度不良であった対象は,SGAでも半数以上が同様のレベル判定で評価されていたが,変法が中度不良であった46名のうちSGAで中度不良と判定されたのは10名であり,変法で重度不良であった18名のうち,SGAで重度不良とされたのは1名のみであった.κ係数はκ = 0.122,スピアマンの相関係数はrs = 0.276であった(表5).
変法 | 正常 | SGA | 重度 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|
軽度 | 中度 | ||||
正常 | 9 | 2 | 1 | 0 | 12 |
軽度 | 8 | 14 | 3 | 0 | 25 |
中度 | 14 | 22 | 10 | 0 | 46 |
重度 | 5 | 5 | 7 | 1 | 18 |
合計 | 36 | 43 | 21 | 1 | 101 |
κ = 0.122 rs = 0.276
ROC曲線を用いた解析では,感度 –(1 – 特異度)が0.237と最も大きくなったのは変法スコア9以上とする点であり,感度36.4%,特異度87.3%であった.また,ほぼ同様の感度 –(1 – 特異度)である0.236を示したのが変法スコア5以上とする点であり,感度 81.8%,特異度 41.8%(p = 0.042)であった.AUCは0.655であった(図2).
SGAで正常と軽度不良群,中度不良と重度不良群に分けた2群との比較では,体重減少or食事量減少の有無は感度95.5%,特異度38.0%(p = 0.003),変法スコア≥5かつ体重減少or食事量減少有の組み合わせは感度77.3%,特異度67.1%(p < 0.001)であった(表6).
体重or食事減少 | SGA | 合計 | 変法スコア≥5 and 体重or食事減少 | SGA | 合計 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
正常・軽度 | 中度・重度 | 正常・軽度 | 中度・重度 | ||||
なし | 30 | 1 | 31 | なし | 53 | 5 | 58 |
あり | 49 | 21 | 70 | あり | 26 | 17 | 43 |
合計 | 79 | 22 | 101 | 合計 | 79 | 22 | 101 |
感度:95.5% 特異度:38.0%(p = 0.003) 感度:77.3% 特異度:67.1%(p<0.001)
変法の栄養レベル評価はSGAと比較し,栄養状態をより不良として判定し,栄養不良ではない患者も多く抽出してしまうため,一致度が低いと推察された.元となったCONUT法ではSGAとの高い一致度が報告されているが3),CONUT法および変法に用いる血液検査データは,炎症や薬物の影響で低値となるAlbをはじめ4),栄養状態以外に多くの原因で低値となる.当院では術後の入院患者に加え,急性期や血液疾患の患者もおり,対象の血液検査データが栄養と関係なく不良となっていることが考えられ,変法単独での栄養評価には限界があると思われた.
ROC曲線から,変法のみでSGA中度不良以上の同定は困難であり,カットオフ値の見直しは本検討では不可能と思われた.先行研究の変法評価表のカットオフ値である変法スコア≥5は,感度 –(1 – 特異度)が最も高値とはならず特異度も低かったが,感度が高いことが確認できた.
変法については,大腿骨近位部骨折患者の周術期合併症発生予測において有用であるとの報告がある5).また,大坪らは後期高齢患者の生命予後に影響する要因の検討において,変法の正常~軽度不良群は中度~重度不良群より1年生存率と2年生存率が高いことを報告している6).このように,変法単独では栄養評価よりも患者の予後予測の指標として有用な可能性がある.しかし,血液検査データのみでの入院患者のスクリーニングは簡便という利点があり,変法とSGAで使用される指標とを組み合わせることを考えた.
体重減少と食事量減少は,問診や入院中の患者状態から判断が容易な項目であり,数ある栄養アセスメントツールの多くに項目として含まれていることから,重要な評価項目とされている7).本研究においても,SGA中度不良以上について体重減少or食事量減少の有無は感度が高い.スクリーニングでは感度が高いことは重要な指標であるが,病床数が多い病院では,スクリーニングで抽出される入院患者数が多いとマンパワー的にその後の詳細なアセスメントは困難である.よって,特異度についても高いスクリーニング方法が必要と考えた.変法スコア≥5と体重減少or食事量減少の有無を組み合わせた指標は,感度は低くなるが特異度がそれぞれ単独で評価した場合より上昇し,抽出人数をしぼったスクリーニングが可能なことが示唆された.現在当院で行われているスクリーニングに加え,簡便に抽出可能な変法スコア≥5の入院患者の内,体重,食事量どちらかの減少があれば,アセスメントを行う方法はスクリーニングの1つとして有用と考えられる.ただし,本研究だけでは対象が少なく,SGA以外のスクリーニング項目との比較もできていないことから,より詳細な検討を行う必要がある.
SGAを基準とした場合,変法単独のスクリーニングでは栄養状態をより不良として判定してしまい,SGA中度不良以上の特異度も低いが,変法に体重減少or食事量減少の有無を組み合わせることで特異度が上昇し,簡便な栄養スクリーニング方法として有用であることが示唆された.
本論文に関する著者の利益相反なし