学会誌JSPEN
Online ISSN : 2434-4966
臨床経験
シアノアクリレート製剤を用いた末梢挿入型中心静脈カテーテル管理の有用性
柳橋 美幸田邉 亜純藏田 能裕松本 泰典
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2024 年 6 巻 1 号 p. 23-29

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Abstract

【目的】末梢挿入型中心静脈カテーテル(peripherally inserted central venous catheter;以下,PICCと略)管理における,シアノアクリレート製カテーテル接着剤(catheter securement cyanoacrylate adhesive;以下,CSCAと略)の有用性を検討する.

【対象と方法】当院で PICCを挿入した117例を対象とした.従来の無縫合固定器具のみで固定した群(Control群32例)とCSCAを追加した群(CSCA群85例)に分け,カテーテルの逸脱距離と出血の程度を比較した.

【結果】CSCA群でカテーテルの逸脱が抑制され(12.0 ± 11.8 mm vs. 4.0 ± 4.3 mm,p < 0.01),刺入部からの出血も少なかった(21例(65.6%)vs. 6例(7.1%),p < 0.01).

【結論】CSCAの使用で合併症を低減できる可能性があるが,医療者の負担をより少なくするカテーテル管理法を検討する必要がある.

目的

末梢挿入型中心静脈カテーテル(peripherally inserted central venous catheter;以下,PICCと略)の合併症として,カテーテルの皮膚への不十分な固定により先端位置が変化し,不整脈,静脈壁損傷,血栓形成などが誘発されることが知られている1).さらに,カテーテル刺入部からの出血は,カテーテル感染の原因となり,審美性の点からも好ましくなく,カテーテル刺入部の消毒・包帯交換(以下,包交と略)が求められる2).一方で,消毒・包交処置は,操作の際にカテーテルの刺入部への侵入や逸脱を招くため,丁寧で慎重な手技が求められる.

米国輸液看護師協会の輸液療法実践基準3)では,対策としてシアノアクリレート製カテーテル接着剤(catheter securement cyanoacrylate adhesive;以下,CSCAと略)の使用を提案している.CSCAをカテーテル刺入部に塗布することで,刺入部を被覆・固定し,出血を予防できる.これまで,海外を中心にCSCAの有用性が報告されている4)が,本邦での使用経験は乏しく,PICC管理での有用性は不明である.

当院食道・胃腸外科では,2022年よりPICC固定にCSCAの使用を開始した.今回,入院中にPICCを挿入した症例を後方視的に解析し,PICC管理におけるCSCAの有用性を検討し,管理を担当した看護師を対象に質問紙によるアンケート調査を行った.

対象と方法

1. 対象

2021年10月から2022年9月まで,食道・胃腸外科入院中にPICCを挿入した117例と,カテーテル管理を担当した病棟看護師37名を対象とした.本研究は千葉大学大学院医学研究院倫理審査委員会で審査・承認(整理番号:M10351)を得て行われた.

2. 方法

CSCA導入前の2021年10月から2022年1月までに,PICC固定に無縫合固定器具(StatLock®, Becton, Dickinson and Company,米国)のみを使用した群(Control群32例)と,CSCA導入後の2022年1月から2022年9月までに,PICC固定に無縫合固定器具に加えてCSCA(Secure Port IV®, Adhesion Biomedical,米国)を追加した群(CSCA群85例)に分け,カテーテル逸脱距離と出血の程度を比較した.

PICCはグローション®カテーテル末梢静脈挿入式中心静脈用カテーテル(Becton, Dickinson and Company,米国)を使用し,超音波下穿刺5)およびX線透視下にカテーテルの挿入を行い,気管分岐部より1椎体尾側にカテーテル先端が位置するように留置した.Control群ではカテーテルを無縫合固定器具で固定し,CSCA群はそれに加えてCSCAをカテーテル刺入部に塗布し皮膚とカテーテルを固定した.両群ともポリウレタンフィルム材(テガダームTM,3MTM社,米国)で刺入部を被覆し,粘着性伸縮包帯でカテーテル刺入部を約1時間圧迫し,止血した.刺入部の包交は1週間毎を目途とし,刺入部周囲を1%クロルヘキシジングルコン酸塩による消毒とポリウレタンフィルム材の貼替えを行い,CSCA群ではその都度CSCAの追加塗布を行った.血液汚染が強い場合は看護師の判断で包交を追加した.

経過中のカテーテル逸脱距離は,PICC挿入時と抜去時に撮影されたカテーテル刺入部の写真を元に,体外のカテーテル長の変化を測定した(図1).刺入部からの出血は,PICC挿入後の初回包交時の写真を元に程度を評価し,刺入部からの出血がカテーテルに沿って無縫合固定具を汚染する程度のものを「包交が必要な出血」と定義した(図2).電子カルテデータより,年齢,性別,原疾患,治療目的,障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度),PICC留置期間,PICC抜去理由を収集した.看護師への質問紙調査は,CSCAの使用前後でのPICC包交に関する業務負担,心理的負担の変化について質問した.

図1.カテーテル逸脱距離の計測

PICC挿入時(a.)とPICC抜去時(b.)の写真を元に,体外のカテーテル長の変化を測定.提示した症例では105 mm–55 mmで,逸脱距離は50 mm.

図2.カテーテル刺入部からの出血評価

初回包交時の写真を参照し,刺入部からの出血の程度を評価.血液がカテーテルに沿って無縫合固定器具を汚染する程度の出血を「包交が必要な出血」と定義(a,b:包交が不要な出血,c,d:包交が必要な出血).

3. 統計学的手法

数量データは平均値 ± 標準偏差で示し,Mann–Whitney U testで比較を行った.質的データはFisher’s exact testで比較を行った.有意水準は0.05とし,統計処理にはEZRを使用した6)

結果

症例の内訳は,男女比97:20,平均年齢70.4 ± 11.0歳,PICCの留置期間は18.4 ± 15.5日で,2群間に差は認めなかった.カテーテルの逸脱距離はControl群:12.0 ± 11.8 mm,CSCA群:4.0 ± 4.3 mm(p < 0.01)で,CSCA群でカテーテルの逸脱が抑制されていた.出血は,包交が必要な出血がControl群で21例(65.6%),CSCA群が6例(7.1%,p < 0.01)で,CSCA群で抑制されていた.PICC抜去理由のうち,発熱をきたしたものの明らかな熱源を認めず,カテーテル血流関連感染(catheter related blood stream infection;以下,CRBSIと略)が疑われた症例はControl群5例(15.6%),CSCA群5例(5.8%,p = 0.13)で,1,000カテーテル日あたりのCRBSIを疑う症例の発生率はControl群8.29例/1,000カテーテル日,CSCA群3.23例/1,000カテーテル日であった.なお,培養検査でCRBSIが証明された症例は認めなかった.カテーテル固定効果は,留置期間の長い化学放射線療法群や,活動性が高いと考えられる群で特に有用であった.CSCAに対するアレルギー反応などの有害事象は認めなかった(表14).

表1.患者背景

合計 Control群(n = 32) CSCA群(n = 85) p
性別(男:女) 97:20 28:4 69:16 0.58
年齢(歳) 70.4 ± 11.0 69.1 ± 10.4 70.9 ± 11.2 0.39
原疾患 食道がん 87 22 65 0.47
胃がん 10 2 8 0.72
結腸直腸がん 7 2 5 1
腸閉塞 5 4 1 0.02
腹膜炎 2 2 0 0.073
食道気管瘻 1 0 1 1
虚血性腸炎 1 0 1 1
その他腫瘍 4 0 4 0.57
治療目的 手術 34 9 25 1
化学療法 32 5 27 0.1
化学放射線療法 25 8 17 0.62
栄養療法 26 10 16 0.21
日常生活自立度 J:ほぼ自立 64 17 47 0.84
A:介助により外出 22 3 19 0.18
B:屋内でも介助を要する 17 6 11 0.56
C:ベッド上で生活 14 6 8 0.2
PICC留置期間(日) 18.4 ± 15.5 18.8 ± 12.7 18.2 ± 16.4 0.21
PICC抜去理由 治療終了 106 27 79 0.17
カテーテル感染疑い(例) 10 5 5 0.13
カテーテル感染疑い(例/1,000カテーテル日) 4.65 8.29 3.23
自己/事故抜去 1 0 1 1
カテーテル逸脱距離(mm) 6.2 ± 8.0 12.0 ± 11.8 4.0 ± 4.3 <0.01
包交が必要な出血 27 21 6 <0.01

表2.カテーテル留置日数(日)と患者背景

Control群 CSCA群 p
治療目的
手術(n = 34) 20.3 ± 7.7 21.3 ± 19.8 0.32
化学療法(n = 32) 9.2 ± 4.4 9.2 ± 6.7 0.54
化学放射線療法(n = 25) 30.8 ± 17.9 27.0 ± 21.0 0.52
栄養療法(n = 26) 12.8 ± 5.3 19.3 ± 9.3 0.26
日常生活自立度
J:ほぼ自立(n = 64) 16.9 ± 12.1 18.1 ± 16.7 0.76
A:介助により外出(n = 22) 22.7 ± 18.7 20.5 ± 20.6 0.6
B:屋内でも介助を要する(n = 17) 24.2 ± 17.0 14.4 ± 8.9 0.19
C:ベッド上で生活(n = 14) 17.2 ± 6.9 18.6 ± 13.0 1

表3.カテーテルの逸脱距離(mm)と患者背景

Control群 CSCA群 p
治療目的
手術(n = 34) 8.9 ± 8.4 4.9 ± 5.1 0.26
化学療法(n = 32) 18.0 ± 22.0 3.9 ± 5.1 0.061
化学放射線療法(n = 25) 16.9 ± 10.7 2.8 ± 2.7 <0.01
栄養療法(n = 26) 8.0 ± 6.7 4.0 ± 2.9 0.18
日常生活自立度
J:ほぼ自立(n = 64) 11.2 ± 9.8 3.9 ± 4.6 <0.01
A:介助により外出(n = 22) 10.0 ± 8.7 3.3 ± 4.7 0.08
B:屋内でも介助を要する(n = 17) 12.5 ± 21.6 3.7 ± 2.6 1
C:ベッド上で生活(n = 14) 14.8 ± 6.9 6.5 ± 3.3 0.031

表4.刺入部からの出血例と患者背景

  Control群 CSCA群 p
出血 あり/なし あり/なし
治療目的
手術(n = 34) 7/2 1/24 <0.01
化学療法(n = 32) 3/2 4/23 0.057
化学放射線療法(n = 25) 5/3 1/16 <0.01
栄養療法(n = 26) 6/10 0/16 <0.01
日常生活自立度
J:ほぼ自立(n = 64) 12/5 5/42 <0.01
A:介助により外出(n = 22) 2/1 0/19 0.013
B:屋内でも介助を要する(n = 17) 3/3 1/10 0.099
C:ベッド上で生活(n = 14) 4/2 0/8 0.015

アンケート調査では,出血や汚染状況について,「減った」は11%にとどまり,「変わらない」が38%であった.CSCAの使用でPICCの包交を安全に実施できるかについては,51%が「安全に包交を実施できそう」と回答したが,8%は「包交時にカテーテルが抜ける不安がある」と回答した.CSCAの使用に伴う看護業務について,49%が「減った」「変わらない」と回答し,5%が「増えて負担に感じる」と回答した.(表5).

表5.病棟の看護師を対象としたアンケート n = 37

質問項目 n %
1.経験年数
看護師としての経験年数を教えてください
 1–3年 13 35.1
 4–6年 4 10.8
 7年– 20 54.1
2.CSCAの使用経験
今までにSecure Port IVを使用しないPICC固定を行ったことがありますか
 ある 28 75.7
 ない 9 24.3
3.CSCA使用後の変化
Secure Port IV使用後,PICC関連のトラブル発生や頻度に変化はありましたか
 ①カテーテル刺入部からの出血
  減った 4 10.8
  変わらない 14 37.9
  増えた 0 0
  分からない 10 27
  未回答 9 24.3
 ②自己抜去,または事故抜去
  減った 4 10.8
  変わらない 13 35.2
  増えた 0 0
  分からない 11 29.7
  未回答 9 24.3
 ③感染を疑ったカテーテル抜去
  減った 3 8.1
  変わらない 8 21.6
  増えた 0 0
  分からない 17 46
  未回答 9 24.3
 ④その他(下記,自由記載) 1
4.業務負担
 Secure Port IVを使用した包交は安全に実施できそうですか
  カテーテル逸脱の不安は減り,安全に実施できそう 1 2.7
  カテーテル逸脱の不安は従来とかわらないが,安全には実施できそう 18 48.7
  カテーテル逸脱の不安は従来の方法とかわらず,安全に実施できるかも分からない 3 8.1
  カテーテル逸脱の不安は従来より増え,安全に実施できるとは言い難い 0 0
  その他(下記,自由記載) 3 8.1
  未回答 12 32.4
 Secure Port IVの使用により,PICC関連の業務量(臨時包交,観察,トラブル対応など)に変化はありましたか
  減った 1 2.7
  変わらない 17 46
  増えたが負担とまでは感じない 5 13.5
  増えて負担に感じる 2 5.4
  分からない 12 32.4
自由記載
3.CSCA使用後の変化
 出血拡大によるテガダーム内の汚染のひどさが減った気がします 
4.業務負担
 フィルムを剥がした後にカテーテルが抜けそうになったことがあり,不安や恐怖心がある
 Secure Port IVが残っていることが少なく,効果があまり実感できない
 フィルムを剥がすときに逸脱しないか不安になる
 業務負担にも軽減にも感じていないです
 テガダームを剥がすときPICCが抜けないか心配する度合いが減った
 どちらも実施する内容はほとんど同じため,業務量の変化はないと感じる
 それほど時間を要さない
 Secure Port IVを乾かすのに今までより時間を要しているがそこまで負担ではない
 以前は刺入部からの出血が多い人の包交が大変でしたが,最近は減った気がします
 Secure Port IVを滴下する位置が定まらなかったり,乾くまでの時間がかかるが,ルートが皮膚に固定されている安心感がある
 出血拡大によるテガダーム内の汚染のひどさが減った気がします

考察

PICC管理にCSCAを使用することで,経過中のカテーテルの侵入や逸脱,刺入部からの出血が抑制された.一方で,CRBSI抑制効果に関しては発生症例数では2群間に有意差を認めず,アンケートでもCSCAの使用だけでは「包交時にカテーテルが抜ける」という不安を払拭できていないことが示された.

CRBSIの感染源としては,①点滴ルート接続部,②カテーテル刺入部,③bacterial translocationによるものが知られている.固定不良によりカテーテルが刺入部から侵入・逸脱することは,それ自体がCRBSIのリスクと考えられている7,8).今回の検討ではCRBSIの発生症例数に差はなかったが,1,000カテーテル日あたりでのCRBSIを疑う症例の発生率はCSCA群で少なかった.CSCAによりカテーテルを皮膚に固定することで,カテーテルの逸脱が減少した上に,刺入部を被覆することにより体内への微生物の侵入が抑制され,CRBSIを疑うような熱源不明の発熱をきたす症例が抑制された可能性がある.今回の対象症例には,手術やがん治療を目的として入院した症例が多く含まれており,発熱によってPICCが抜去されると治療自体が遅れる可能性がある.これらの症例ではCRBSIを疑うような発熱の発生率を抑制することは治療の遂行において重要であり,CSCAの使用はその一助となる可能性がある.

カテーテル先端の位置異常は,不整脈や静脈壁損傷,血栓症の誘因となるため,血流の多い上大静脈に留置することが推奨されている.PICC刺入部は一定期間ごとに消毒が行われるが9),その処置に伴いカテーテルが抜ける危険性がある.今回のアンケートでも,包交によってカテーテルが抜ける不安を感じている看護師が一定数おり,CSCAを使用してもその不安が完全に払拭できていないことが判明した.CSCA は皮膚のターンオーバーに合わせて約1週間程度で粘着度が低下するため,包交時のカテーテル逸脱の不安が残る原因と考えられた.CSCAの使用によりカテーテルの逸脱が抑制されること,CSCAの塗布は看護業務の追加負担となっていないことが示されたため,この結果を周知することにより,わずかな看護業務の増加で,包交時の心理的負担を軽減することができる可能性がある.さらに,PICC固定法を工夫し,看護師が不安を感じることなく包交できれば,看護業務をより効率化できる可能性もある.

本研究のlimitationとして,単一施設の後方視的検討であること,比較的小数例での検討であるという点が挙げられる.本研究の結果の妥当性を確認するために,多施設前向き試験を実施する必要がある.

結論

CSCAの使用により,カテーテルの侵入・逸脱や刺入部からの出血が抑制された.看護師のアンケートでは,CSCAの使用は業務負担とはならないが,PICC包交に対する不安は完全には払拭できていなかった.PICC管理において,CSCAの使用はカテーテル関連合併症を低減できる可能性があるが,使用を広めるためには心理的負担をより少なくできるようなカテーテル管理の方法を検討する必要がある.

 

この論文の要旨は第61回日本癌治療学会学術集会(2023年10月,横浜)で発表した.

本論文の責任著者である藏田能裕は日腸工業より共同研究費を受理している.

引用文献
 
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