学会誌JSPEN
Online ISSN : 2434-4966
委員会報告
「JSPEN-U45アンケート」から見るJSPEN会員の学術活動の現状とJSPENの未来像
熊谷 厚志松井 亮太宮崎 安弘青山 徹奥川 喜永島本 和巳牧 宏樹松尾 晴代光永 幸代
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2024 年 6 巻 1 号 p. 51-64

詳細
Abstract

【目的】日本臨床栄養代謝学会(Japanese Society for Clinical Nutrition and Metabolism;以下,JSPENと略)若手会員による将来構想委員会「JSPEN-U45(以下,U45と略)」は,JSPEN会員の学術活動状況と将来への考えを調査するためにアンケートを企画した.

【対象および方法】アンケートはGoogleフォームで作成され,2022年2月に全会員宛てに電子メールで告知,実施された.

【結果】実施時会員22,434人のうち3,756人(16.7%)から回答が得られ,うち1,200人(31.9%)が「取り組んでいる研究がある」と回答した.「ない」理由の上位は「アイデアがない」,「方法がわからない」,「指導者がいない」等であった.45歳以下のアンケート回答者2,415人のうち1,048人(43.4%)が「U45活動に参加したい」と回答した.

【結論】U45は会員の臨床研究を支援するセミナーの開催や共通データベースの構築,若手会員が参加できる「U45クラブ」の設立など,JSPENの未来を創る活動を進める.

目的

日本臨床栄養代謝学会(Japanese Society for Clinical Nutrition and Metabolism;以下,JSPENと略)は,若手会員による将来構想委員会として,2021年4月5日に「JSPEN-U45(以下,U45と略)」を発足した1).初代U45には45歳以下のJSPEN会員10名が参加し,2021年5月13日の第1回会議以来,隔月でweb会議を開催している.

第1回会議では,各メンバーが「JSPEN U45が目指すべきところ」と「活動の具体案」についての考えを述べた.これをもとに,JSPEN-U45は「JSPENの未来を創造すること」を目指して,I.Education & Early exposure,II.共通データベース構築,III.国際交流,IV.臨床ネットワーク整備の4つの「未来創造プロジェクト」およびエビデンス創出のための研究を進めていくことを,第2回会議(2021年6月30日開催)で決定した1)(表1).

表1.JSPEN未来創造プロジェクト

I. Education & Early exposure
JSPEN若手会員を対象として,臨床研究の立案・遂行,臨床統計を学べる機会を創る.また,学生を対象として,現場で活躍するメディカルスタッフと交流することで臨床栄養に興味を持ってもらえる機会を創る.
II. 共通データベース構築
研究で必要となるデータをカルテから自動的に収集できるシステムを創る.
III. 国際交流
海外における栄養のスタンダードを知り,日本との違いを認識するための場を創る.
IV. 臨床ネットワーク整備
栄養に関する疑問や各施設のNSTで難渋している症例についてのコンサルテーションができるシステムを創る.

JSPEN-U45は「JSPENの未来を創造すること」を目指し,4つの「未来創造プロジェクト」を当初の課題として掲げた.

JSPEN-U45が今後の活動を進めていく上での指針とすべく,JSPEN会員の学術活動の現状とJSPENの将来についての意見を調査するためにアンケートを計画したので,その結果を報告する.

対象および方法

アンケートはGoogleフォームを用いて作成された.2022年2月1日にJSPEN事務局よりJSPEN全会員を対象として,登録されている各会員のメールアドレス宛に発信し,告知された.同15日にリマインドメールを発信し,同28日を回答期限とした.

アンケートはJSPEN-U45会議での議論を経て選ばれた15の設問で構成された(表22).回答結果はJSPEN事務局で集計され,著者の元に送られた.

表2.JSPEN-U45アンケート一覧

Q1.あなたの職種をお答えください.
A1.管理栄養士,医師,薬剤師,看護師,臨床検査技師,言語聴覚士,理学療法士,歯科医師,作業療法士,歯科衛生士,栄養士,診療放射線技師,准看護師,その他
Q2.あなたの年齢をお答えください.
A2.~25歳,26~30歳,31~35歳,36~40歳,41~45歳,46~50歳,51~55歳,56~60歳,61~65歳,66歳以上
Q3.JSPENに入会されてからの年数をお答えください.
A3.~5年,6~10年,11~15年,16~20年,21~25年,26年以上
Q4.JSPENに入会したきっかけをお答えください(複数回答可).
A4.臨床栄養(診療における患者さんへの栄養介入)に興味があったから,栄養の臨床研究に興味があったから,栄養の基礎研究に興味があったから,自身や家族の栄養管理に興味があったから,「食育(食に関する正しい知識と食習慣を身につけるための教育)」に興味があったから,職場での業務上必要に迫られたから,上司または指導者に勧められたから,友人・知人に勧められたから,その他
Q5.JSPENでの役職をお答えください(複数回答可).
A5.なし(一般会員),学術評議員,代議員,理事,特別会員,名誉会員,名誉会長
Q6.査読付き和文雑誌に投稿・掲載の経験がありますか?
A6.ある,ない
Q7.査読付き英文雑誌に投稿・掲載の経験がありますか?
A7.ある,ない
Q8.JSPEN学術集会(支部会を含む)での発表経験につき伺います.
(a)筆頭演者としての発表回数をお答えください.
A8.(a)0回,1~5回,6~10回,11~15回,16回以上
(b)(a)で0回と答えた方に伺います.これまで発表がない理由として当てはまるものをお答えください(複数回答可).
A8.(b)発表するデータがないから,発表の仕方が分からないから,指導者がいないから,学術集会では勉強さえできればよいから,学術集会では資格を維持するための研修・セミナーさえ受けられればよいから,職場を離れることが難しいから,その他
Q9.研究(臨床研究・基礎研究いずれも含む)について伺います.
(a)現在取り組んでいる研究がありますか?
A9.(a)ある,ない
(b)(a)でないと答えた方に伺います.取り組んでいる研究がない理由として当てはまるものをお答えください(複数回答可).
A9.(b)研究にあまり興味がないから,研究に興味はあるがアイデア(示したい仮説)がないから,研究に興味があり示したい仮説もあるが研究方法や統計解析がわからないから,研究に興味があり示したい仮説もあるが時間がない(あるいはもったいない)から,研究に興味があり示したい仮説もあるが指導者がいないから,研究に興味があり示したい仮説もあるがお金がないから,研究に興味があり示したい仮説もあるが周りの人に良い顔をされないから,その他
Q10.JSPEN-U45に興味がありますか?
A10.はい,いいえ
Q11.JSPEN-U45が掲げるプロジェクトの中で,最も興味があるプロジェクトは何ですか?
A11.Education & Early exposure,共通データベース構築,国際交流,臨床ネットワーク整備
Q12.45歳以下の会員のみにお伺いします.JSPEN-U45の活動を推進するため,各プロジェクトのワーキンググループ(WG)を作る予定です.
(a)WGへの参加に興味がありますか?
A12.(a)はい,いいえ
(b)(a)で「はい」と回答された方に伺います.現在計画されているプロジェクトのうち,参加してみたいプロジェクトは何ですか?(複数回答可)
A12.(b)Education & Early exposure,共通データベース構築,国際交流,臨床ネットワーク整備
Q13.JSPEN-U45が掲げる4つのプロジェクトの他に,JSPENの未来を創るためにどのような活動を進めるべきと思いますか?(複数回答可)
A13.多施設共同で観察研究を行う,新しい栄養剤を開発する,栄養サポートチーム加算,胃瘻造設をはじめとする栄養関連の診療報酬の増点あるいは新設を目指す,会員同士が日常的に自由に意見交換できる環境をつくる,ホームページ,ブログ,Webマガジンなどを通じて情報発信や共有を行う,新規薬剤の薬事承認を目指した医師主導治験を行う,行政と連携して児童・生徒を対象とした「食育」活動を進める,栄養についての国内外の最新情報を入手できるシステムをつくる,保険収載を目指した先進医療を行う,Harris-Benedictの式に代わるJSPEN独自の基礎エネルギー消費量計算式を開発する,地域連携に関わる医療ソーシャルワーカーの学会参加を促進する,患者向け栄養管理説明書を監修する,職種間のアクティビティの差を少なくするための支援をする
Q14.JSPEN-U45は多職種のメンバーで構成されています.
(a)JSPEN-U45は職種の垣根を越えた活動ができると思いますか?
A14.(a)はい,いいえ
(b)(a)で「いいえ」と答えた方に伺います.JSPEN-U45が職種の垣根を越えた活動ができないと考える理由は何ですか?(複数回答可)
A14.(b)特定の職種の意向が強く働き過ぎているから,未来を創るために取り組む4つのプロジェクトを進める能力が職種間で違い過ぎるから,研究を進める能力が職種間で違い過ぎるから,各職種の数が不均等だから,すべでの職種が自由に発言できていないから,その他
Q15.JSPEN-U45の目標は,JSPENの未来を創造することです.
(a)JSPEN-U45の活動はJSPENの未来を創造できると思いますか?
A15.(a)はい,いいえ
(b)(a)で「いいえ」と答えた方に伺います.U45がJSPENの未来を創ることができないと思う理由は何ですか?(複数回答可)
A15.(b)JSPEN-U45メンバーの力が足りないから,JSPEN-U45が掲げる4つのプロジェクトが間違っているから,自分がメンバーに入っていないから,その他

15の設問からなるアンケートはGoogleフォームを用いて作成され,2022年2月1日にJSPEN事務局よりJSPEN全会員にメールで告知された.

統計解析にはMicrosoft® Excelを用い,独立性を検定するためにカイ二乗検定を行った.本研究は学会員を対象としたアンケート調査に基づくものであり,倫理審査の対象ではない.

結果

アンケート送付(2022年2月1日)時点でJSPEN会員は22,434人であり,うち3,756人(16.7%)から回答が得られた.

Q1.職種別アンケート回答率(図1

職種間でアンケート回答率に有意差を認めた(P < 0.001).最多の会員数(6,338人)を占める管理栄養士において回答率が19.8%と高かった.

図1.「Q1.職種別アンケート回答率」

職種間でアンケート回答率に有意差を認めた(P < 0.001).最多の会員数(6,338人)を占める管理栄養士において回答率が19.8%と高かった.

Q2.年齢別アンケート回答率(図2

年齢層でアンケート回答率に有意差を認めた(P < 0.001).年齢構成の中心を占める36~40歳(22.4%),41~45歳(22.3%)での回答率が高かった.一方,これらに次いで会員数が多い46~50歳の回答率は15.3%であった.

図2.「Q2.年齢別アンケート回答率」

年齢層でアンケート回答率に有意差を認めた(P < 0.001).年齢構成の中心を占める36~40歳(22.4%),41~45歳(22.3%)での回答率が高かった.一方,これらに次いで会員数が多い46~50歳の回答率は15.3%であった.

Q3.JSPEN入会からの期間別アンケート回答率(図3

JSPEN入会からの期間でアンケート回答率に有意差を認めた(P < 0.001).JSPEN入会からの期間が21~25年の層で30.3%と回答率が高かった.一方,入会からの期間が5年以下の層で14.9%と回答率が低かった.

図3.「Q3.JSPEN入会からの期間別アンケート回答率」

JSPEN入会からの期間でアンケート回答率に有意差を認めた(P < 0.001).JSPEN入会からの期間が21~25年の層で30.3%と回答率が高かった.

Q4.JSPEN入会のきっかけを教えてください(複数回答可).(図4

回答者の約3/4が「臨床栄養(診療における患者さんへの栄養介入)に興味があったから」と回答した.それに次いで,回答者の約1/3が「業務上必要に迫られたから」と回答した.

図4.「Q4.JSPEN入会のきっかけを教えてください」

回答者の約3/4が「臨床栄養(診療における患者さんへの栄養介入)に興味があったから」と回答した.それに次いで,回答者の約1/3が「職場での業務上必要に迫られたから」と回答した.

Q5.役職別アンケート回答率(図5

学術評議員,代議員,理事には重複があるため,ここではより上位の役職(理事 > 代議員 > 学術評議員)としてカウントしている.理事で80%,代議員で約60%,学術評議員で約40%の回答率であり,役職間でアンケート回答率に有意差を認めた(P < 0.001).

図5.「Q5.役職別アンケート回答率」

理事で80%,代議員で約60%,学術評議員で約40%の回答率であり,役職間でアンケート回答率に有意差を認めた(P < 0.001).

Q6.査読付き和文雑誌に投稿・掲載の経験がありますか?(図6

全体での「はい」の回答率は26.0%であったが,会員数の多い職種で見ると,医師(76.1%)と歯科医師(67.5%)は経験者が比較的多かったが,管理栄養士(14.4%),薬剤師(15.8%),看護師(10.8%)は低く二極化しており,職種間で有意差を認めた(P < 0.001).理学療法士は回答数が91名と少ない中ではあるが,「はい」の回答率は34.1%と高かった.

図6.「Q6.査読付き和文雑誌に投稿・掲載の経験がありますか?」

全体での「はい」の回答率は26.0%であった.会員数の多い職種で見ると,医師(76.1%)と歯科医師(67.5%)は経験者が比較的多かったが,管理栄養士(14.4%),薬剤師(15.8%),看護師(10.8%)は低く二極化しており,職種間で有意差を認めた(P < 0.001).

Q7.査読付き英文雑誌に投稿・掲載の経験がありますか?(図7

全体での「はい」の回答率は17.6%であったが,会員数の多い職種で見ると,やはり医師(68.0%)と歯科医師(59.7%)は経験者が比較的多かったが,管理栄養士(6.8%),薬剤師(8.5%),看護師(1.8%)は低く二極化しており,職種間で有意差を認めた(P < 0.001).

図7.「Q7.査読付き英文雑誌に投稿・掲載の経験がありますか?」

全体での「はい」の回答率は17.6%であった.会員数の多い職種で見ると,医師(68.0%)と歯科医師(59.7%)は経験者が比較的多かったが,管理栄養士(6.8%),薬剤師(8.5%),看護師(1.8%)は低く二極化しており,職種間で有意差を認めた(P < 0.001).

Q8(a).JSPEN学術集会での筆頭演者としての発表回数をお答えください(図8

JSPEN学術集会(支部会を含む)で1回以上の発表経験があるという回答は45.8%と半数に満たなかった.職種別では,医師(64.1%)・歯科医師(63.6%)はおよそ2/3で発表経験があったが,管理栄養士(46.6%),薬剤師(40.6%),看護師(35.2%)の順に発表経験ありの割合は低下し,職種間で有意差を認めた(P < 0.001).

図8.「Q8(a).JSPEN学術集会での筆頭演者としての発表回数をお答えください」

JSPEN学術集会(支部会を含む)で1回以上の発表経験があるという回答は45.8%であった.職種別では,医師(64.1%)・歯科医師(63.6%)はおよそ2/3で発表経験があったが,管理栄養士(46.6%),薬剤師(40.6%),看護師(35.2%)の順に発表経験ありの割合は低下し,職種間で有意差を認めた(P < 0.001).

Q8(b).これまで発表がない理由をお答えください(複数回答可)(図9

Q8(a)で発表経験なしと回答した2,034人を対象とした.半数以上の53.1%が「発表するデータがないから」と回答した.指導者がいない(34.0%),発表の仕方がわからない(28.5%)という回答がそれに続いた.

図9.「Q8(b).これまで発表がない理由をお答えください」

半数以上の53.1%が「発表するデータがないから」と回答した.指導者がいない(34.0%),発表の仕方がわからない(28.5%)という回答がそれに続いた.

Q9(a).現在取り組んでいる研究(臨床研究・基礎研究いずれも含む)がありますか?

全体では1,200人(31.9%)が「ある」と回答した.回答数が50名を超える職種で見ると,医師(59.0%),歯科医師(66.2%),理学療法士(51.6%)で「ある」の回答率が高く,職種間で有意差を認めた(P < 0.001)(図10).年齢別では,26~30歳で31.6%と高めであったが,31~35歳で低下し,以降は年齢が上がるにしたがって「はい」の回答率が高くなっていく傾向が見られ,年齢層間で有意差を認めた(P = 0.012)(図11).

図10.「Q9(a).現在取り組んでいる研究(臨床研究・基礎研究いずれも含む)がありますか?(職種別)」

全体では1,200人(31.9%)が「ある」と回答した.医師(59.0%),歯科医師(66.2%),理学療法士(51.6%)で「ある」の回答率が高く,職種間で有意差を認めた(P < 0.001).

図11.「Q9(a).現在取り組んでいる研究(臨床研究・基礎研究いずれも含む)がありますか?(年齢別)」

年齢別では,26~30歳で31.6%と高めであったが,31~35歳で低下し,以降は年齢が上がるにしたがって「はい」の回答率が高くなっていく傾向が見られ,年齢層間で有意差を認めた(P = 0.012).

Q9(b).取り組んでいる研究がない理由をお答えください(複数回答可)

Q9(a)で取り組んでいる研究がないと回答した2,556人を対象とした.

42.0%が研究に興味はあるがアイデア(示したい仮説)がないからと回答した.方法がわからないから(28.3%),時間がないから(27.8%),指導者がいないから(19.4%)という回答がこれに続いた(図12).

図12.「Q9(b).取り組んでいる研究がない理由をお答えください」

42.0%が研究に興味はあるがアイデア(示したい仮説)がないからと回答した.方法がわからないから(28.3%),時間がないから(27.8%),指導者がいないから(19.4%)という回答がこれに続いた.

Q10.JSPEN-U45に興味がありますか?

アンケートに回答した3,756人のうち,2,687人(71.5%)が「はい(興味がある)」と回答した(図13).職種間(図14),年齢層間(図15),役職間(図16)でU45への興味に有意差を認めた(P < 0.001).

図13.「Q10.JSPEN-U45に興味がありますか?(全体)」

アンケートに回答した3,756人のうち,2,687人(71.5%)が「はい(興味がある)」と回答した.

図14.「Q10.JSPEN-U45に興味がありますか?(職種別)」

回答数が多かった職種(50人以上)では,歯科医師(80.5%),理学療法士(76.9%),医師(75.0%)で「はい」の回答率が高かった.職種間でU45への興味に有意差を認めた(P < 0.001).

図15.「Q10.JSPEN-U45に興味がありますか?(年齢別)」

回答数が多かった年齢層(50人以上)では,45歳以下で「はい」の回答率が高かった.年齢層間でU45への興味に有意差を認めた(P < 0.001).

図16.「Q10.JSPEN-U45に興味がありますか?(役職別)」

学術評議員(83.7%),代議員(83.2%),理事(100%)で「はい」の回答率が高かった.役職間でU45への興味に有意差を認めた(P < 0.001).

Q11.JSPEN-U45が掲げるプロジェクトの中で,最も興味があるプロジェクトは何ですか?(図17

「臨床ネットワーク整備(37.9%)」,「共通データベース構築(35.1%)」,「Education and Early exposure(20.9%)」,「国際交流(6.1%)」の順であった.職種別では,医師,歯科医師でEducation and Early exposureに興味があるという回答が多かったのに対し,看護師や管理栄養士では臨床ネットワーク整備への関心が高く,職種間で有意差を認めた(P < 0.001).

図17.「Q11.JSPEN-U45が掲げるプロジェクトの中で,最も興味があるプロジェクトは何ですか?」

「臨床ネットワーク整備(37.9%)」,「共通データベース構築(35.1%)」,「Education and Early exposure(20.9%)」,「国際交流(6.1%)」の順であった.職種別では,医師,歯科医師でEducation and Early exposureに興味があるという回答が多かったのに対し,看護師や管理栄養士では臨床ネットワーク整備への関心が高く,職種間で有意差を認めた(P < 0.001).

Q12(a).JSPEN-U45の活動を推進するため,各プロジェクトのワーキンググループ(WG)を作る予定です.WGへの参加に興味がありますか?(図1819

45歳以下会員2,415人のうち,「はい」の回答は1,048人(43.4%)であった.回答数が多かった職種(50人以上)の中では,理学療法士(69.5%),医師(56.3%),歯科医師(54.7%)で高く,看護師(36.5%)で低かった(図18).「はい」の回答率に職種間で有意差を認めた(P < 0.001).年齢別では「はい」の回答率に有意差を認めなかった(P = 0.465)(図19).

図18.「Q12(a).JSPEN-U45の活動を推進するため,各プロジェクトのワーキンググループ(WG)を作る予定です.WGへの参加に興味がありますか?(職種別)」

45歳以下会員2,415人のうち,「はい」の回答は1,048人(43.4%)であった.回答数が多かった職種(50人以上)の中では,理学療法士(69.5%),医師(56.3%),歯科医師(54.7%)で高く,看護師(36.5%)で低かった.「はい」の回答率に職種間で有意差を認めた(P < 0.001).

図19.「Q12(a).JSPEN-U45の活動を推進するため,各プロジェクトのワーキンググループ(WG)を作る予定です.WGへの参加に興味がありますか?(年齢別)」

年齢別では「はい」の回答率に有意差を認めなかった(P = 0.465).

Q12(b).現在計画されているプロジェクトのうち,参加してみたいプロジェクトは何ですか?(複数回答可)(図20

45歳以下会員のうちワーキンググループに興味があると回答した1,047人を対象としたアンケートでは.「臨床ネットワーク整備(61.0%)」,「共通データベース構築(52.4%)」,「Education and Early exposure(45.0%)」,「国際交流24.4%)」の順であった.

図20.「Q12(b).現在計画されているプロジェクトのうち,参加してみたいプロジェクトは何ですか?(複数回答可)」

「臨床ネットワーク整備(61.0%)」,「共通データベース構築(52.4%)」,「Education and Early exposure(45.0%)」,「国際交流24.4%)」の順であった.

Q13.JSPEN-U45が掲げる4つのプロジェクトの他に,JSPENの未来を創るためにどのような活動を進めるべきと思いますか?(複数回答可)(図21

多施設共同での観察研究(1,870票),最新情報の入手(1,840票),診療報酬の増点・新設(1,713票),意見交換の場を作る(1,498票)などが上位を占めた.管理栄養士,薬剤師,看護師では,最新情報を入手できるシステム作りや診療報酬の増点・新設,意見交換の場作りなどを求める意見が多かったが,医師では多施設共同観察研究,先進医療,治験などを求める意見が相対的に多く,職種間で有意差を認めた(P < 0.001).

図21.「Q13.JSPEN-U45が掲げる4つのプロジェクトの他に,JSPENの未来を創るためにどのような活動を進めるべきと思いますか?」

多施設共同での観察研究(1,870票),最新情報の入手(1,840票),診療報酬の増点・新設(1,713票),意見交換の場を作る(1,498票)などが上位を占めた.

Q14(a).JSPEN-U45は職種の垣根を越えた活動ができると思いますか?

全体では92.1%が「はい」と回答した.「はい」の回答率に職種間で有意差を認めなかった(P = 0.303).一方,年齢層別の検討では,年齢が上がるにつれて「はい」の回答率が低下する傾向がみられ,「はい」の回答率に年齢層間で有意差を認めた(P = 0.046).役職間で「はい」の回答率に有意差を認めなかった(P = 0.859).

Q14(b).JSPEN-U45が職種の垣根を越えた活動ができないと考える理由は何ですか?(複数回答可)

「特定の職種の意向が強いから(159票)」,「メンバー数が不均等だから(146票)」,「能力に差があるから(110票)」などが上位を占めた.

職種別では,薬剤師,看護師では「数の不均等」が最も多く,医師,管理栄養士では「特定の職種の意向が強い」が最も多かったが,統計学的には有意差を認めなかった(P = 0.969).年齢層間(P = 0.992),役職間(P = 0.881)で回答内容に有意差を認めなかった.

Q15(a).JSPEN-U45の目標は,JSPENの未来を創造することです.JSPEN-U45の活動はJSPENの未来を創造できると思いますか?

96%が「はい」と回答した.

Q15(b).JSPENーU45がJSPENの未来を創ることができないと思う理由は何ですか?(複数回答可)

Q15(a).で「JSPEN-U45はJSPENの未来を創造できない」と回答した142人を対象とした.「JSPEN-U45メンバーの力が足りないから」が42票,「JSPEN-U45が掲げる4つのプロジェクトが間違っているから」が13票,「自分がメンバーに入っていないから」が9票であった.職種間(P = 1.000),年齢層間(P = 1.000),役職間(P = 1.000)でU45がJSPENの未来を創ることができないと思う理由に有意差を認めなかった.

考察

本アンケートは,2万人超のJSPEN全会員を対象として行われたものであり,JSPEN会員の学術活動の現状とJSPEN会員が描くJSPENの未来像について,多くの示唆に富む結果が得られた.

アンケート回答率の年齢別検討において,年齢構成の中心を占め,さらにU45世代でもある36~45歳で回答率が高かったのは喜ばしいことである.一方,JSPEN入会からの期間別検討では,入会から間もない会員の回答率が低かった.これからのJSPENを担う若者の,JSPEN活動への参加意欲を惹起する意識が必要と考えられた.アンケート回答率の役職別検討では,3,393人(15.7%)の一般会員から回答が得られたことが分かった.本アンケート結果が,JSPENの実情を示すものとして評価できるものであるといえる.一方,学術評議員の回答率が38.0%,代議員の回答率が57.7%であった.JSPENが学術団体として一丸となって前進していくためには役職付き会員からの回答率はもっと高くあって欲しいところであり,U45の趣旨,活動に賛同が得られるよう,さらにアピールしていく必要がある.

JSPEN入会のきっかけとして,約3割の会員が「臨床研究への興味」を挙げており,JSPEN会員の研究への関心度の高さが示唆された.

査読付き和文・英文雑誌への投稿・掲載の経験,JSPEN学術集会での発表経験,取り組んでいる研究が無い背景には,適切な指導を受けられる環境にいない会員が少なくない現状が窺がわれた.取り組んでいる研究がない理由として「発表するデータがないから」という回答が半数以上を占めたが,これは臨床で直面しているはずの問題をクリニカルクエスチョンとして認識することができないことを示唆する.「指導者がいない」,「発表の仕方が分からない」という回答も多く,U45が優先して取り組むべき課題と思われた.U45では「How to研究セミナー」と題し,メディカルスタッフを対象として「どのように研究を組み立てるか」に始まり,学会発表・論文作成までを支援するセミナーをシリーズ化して開催している.また,若手会員が研究に取り組むきっかけとして,症例報告での学会発表の機会は重要である.若手会員が演題応募しやすいように,症例報告の纏め方の教育講演や若手を中心とした「症例報告」のセッションを設けるなど,学術集会の構成を工夫することも検討すべきと考えられた.

U45が掲げる4つのプロジェクト(表1)への興味には,職種間で違いが見られた.医師,歯科医師,薬剤師は「Education and Early exposure」に興味があり,研究や教育への意識が強いことがわかった.一方,管理栄養士,看護師は「臨床ネットワーク整備」,すなわち臨床の場での患者の栄養管理における問題解決に興味があることが窺がわれた.これについては後述する「U45クラブ」において,課題の一つ(②「臨床現場の問題解決」)としてワーキンググループを組織し,いかにして臨床現場で遭遇した患者さんの栄養に関する問題を解決するためのネットワークを整備するかという課題に取り組むことになった.また,多くの臨床研究ではカルテから得た情報の解析が必要であるが,データを自身のコンピュータに手入力するところから始めるのは労力と時間を要し,また正確性が損なわれるリスクにもなる.「共通データベース構築」はこの作業を省略するためのものであり,U45として優先して取り組むべきプロジェクトと考えられる.そこで,医療情報の専門家と共同で,異なる電子カルテベンダー間で共用できる電子カルテテンプレートの作成を進めており,実用化が待たれる.

1,000人以上の45歳以下会員から「U45のプロジェクトに参加したい」という回答が得られた.これを受けて若手会員にU45とともに活動してもらう場として「U45クラブ」を設立した.2023年11月10日現在,442名がU45クラブに参加し,①「臨床研究・論文作成」,②「臨床現場の問題解決」,③「栄養教育」,④「家庭との両立・キャリアパス作成」という4つの課題についてワーキンググループを作り,活動を開始している.U45およびU45クラブのこれらの活動がJSPENの未来創造につながる具体的な成果を挙げるためには,各委員会と有機的に連携する必要があるだろう.

U45が掲げる4つのプロジェクト以外に進めるべきプロジェクトとして,多施設共同での観察研究の提案が最も多かった.U45では,4つの未来創造プロジェクトとは別に研究活動を進めている.ここではU45への研究面での期待度を調査する目的で研究に関する項目をいくつか選択肢に入れたが,医師主導治験や先進医療といった大規模な臨床試験,栄養剤の開発等ではなく,むしろネットワークを生かした情報共有や,診療報酬の増点・新設,患者向け冊子の監修など,日々の診療に直結するものへの期待が大きいことが示された.

JSPENが多職種で構成されることを特長としているのと同様に,U45も多職種の力でJSPENの未来を創造することを目指している.数が不均等であることや特定の職種の意向が強いこと,能力に差があることなどを理由に,職種の垣根を超えられないという意見もあったが,それぞれの職種が受ける教育や,臨床の場における役割に違いがあることは事実であり,必然的にそれぞれの職種が能力を発揮できる場面は異なる.例えば看護師は最も患者の身近にいる職種であり,臨床現場で患者が求めているものを敏感に感じ取ることができる立場を適切な栄養管理に生かせる可能性がある.理学療法士であれば栄養と運動の相乗効果を示すために活躍することが期待される.また,人口減少と超高齢化に伴う医療ニーズの質・量の変化に対応するための「地域医療構想」,欧米諸国に大きく遅れを取るわが国の医療者における「働き方改革」,これらを実現するための手段として期待される「DX(digital transformation)推進」などの課題には,若手が中心となって取り組む必要がある.JSPENの活動においても,多職種の強みである多様性と若さを生かしたプロジェクトを,U45メンバーで立案し,遂行していきたい.

結論

JSPEN会員を対象としたアンケートを行い,16.7%から回答を得た.JSPEN学術集会での発表経験を持つ会員は半数に満たないことや,取り組んでいる研究がある会員は約3割であることが明らかとなった.U45では,研究に興味はあるがその手法が分からないという会員に学習の機会を提供するとともに,研究を進めるにあたって欠かせないデータベースの構築を優先課題として進めている.また,アンケートで参加希望が多かった臨床ネットワーク整備と,国際交流については,U45クラブを中心に進めていきたい.

多職種で構成されるJSPENの最大の特長は多様性である.JSPEN-U45は多様性に加えて若さを最大限に生かし,JSPENの未来を創る推進力となる活動を目指す.

謝辞

アンケートに回答くださったJSPEN会員の皆様ならびにアンケート実施にあたり多大なるご協力をいただいたJSPEN-U45堤理恵先生,JSPEN事務局 瀧田実隆様に心より感謝申し上げます.また,アンケートおよび本論文作成にあたりご指導いただいたJSPEN-U45相談役の鍋谷圭宏先生,石井良昌先生,市川大輔先生,竹内裕也先生,ならびに比企直樹JSPEN理事長に深謝申し上げます.

 

第5著者は,過去 1 年間に大塚製薬工場,中外製薬株式会社,株式会社ツムラからの個人的な講演謝礼を受けている.

引用文献
  • 1)   堤  理恵, 松井 亮太, 熊谷 厚志ほか.JSPEN-U45の活動と今後の展開.臨床栄養 141:650–652,2022.
  • 2)  日本臨床代謝栄養学会(JSPEN)U45ウェブサイト.JSPEN-U45アンケート:学術活動の現状とJSPENの将来について.2023年9月28日更新https://onl.sc/2FcZyFE(2023年9月28日 参照)
 
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