2015 年 60 巻 1 号 p. 7-10
ヒト細胞内には,主に細胞増殖に作用するERK経路と,様々なストレス刺激に応答して細胞死を誘導するストレス応答MAPK(p38及びJNK)経路という複数のMAPKカスケードが存在する.細胞運命を決定して生体の恒常性維持を担うこれらMAPK経路の異常が,癌や自己免疫疾患などの発症に密接に関与することが示されている.私たちはこれまでに,分子生物学的手法と各種電気泳動法を駆使して,ヒト・ストレス応答経路の活性制御分子の探索を行い,MTK1やPP2Cなどの蛋白質リン酸化・脱リン酸化酵素やストレス誘導遺伝子GADD45など,複数の新規分子を同定して,その生理機能を明らかにしてきた.またERK経路に関しても研究を進め,最近,ERKによってリン酸化される基質として,機能未知の新たな分子MCRIP1を同定することに成功し,さらにMCRIP1が癌の転移に関わる上皮間葉転換の制御に寄与することを示した.本稿では,MAPK情報伝達経路の制御機構とその破綻がもたらす疾患発症機構に関して,我々の知見を中心に概説する.