小麦種子の主な貯蔵タンパク質であるグルテニンとグリアジンは,小麦粉の二次加工性に大きな影響を及ぼす.これらのタンパク質は水を吸収し,ネットワークを形成し,グルテンと呼ばれるタンパク質複合体を生成する.パン用小麦は,A,B,およびDと3つのゲノムで構成される6倍体植物である.各ゲノムには,類似の機能を持つタンパク質をコードする同祖遺伝子が存在する.これにより,類似の機能を持ちながら,わずかに異なる配列を持つ複数のアイソフォームが生成される.さらに,一部のグルテンタンパク質は翻訳後修飾を受ける.グルテニンとグリアジンのもう1つの特徴は,グルタミンが豊富で,反復配列が多いことである.これらの特徴により,質量分析計のみを使用したタンパク質ショットガン分析によるタンパク質同定は困難であった.著者らは,二次元電気泳動と質量分析計を組み合わせることで,多数のプロテオフォーム(アイソフォーム+翻訳後修飾タンパク質)を同定することに成功し,特定のプロテオフォームが小麦粉の品質を示すアルベオグラフのFb値と相関していることを見出した.一方,グルテン中のジスルフィド結合は品質に深く関係していると考えられてきたが,グルテンは巨大な複合体ゆえ解析が困難であり,ジスルフィド結合パターンの詳細は明らかにされていなかった.そこで,著者らは,臭化シアンでグルテニンを断片化し,対角線電気泳動と質量分析計を用いてジスルフィド結合様式を決定することに成功した.
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