2024 年 68 巻 2 号 p. 91-96
本邦では,毎年およそ38万人ががん死する.これまでに様々な治療法や抗がん剤が開発されてきたが,いずれに対しても,やがてがんは治療抵抗性を獲得することが治療上の大きな問題である.がんが増殖する過程で多数のがん細胞が生じるが,これらのがん細胞は少しずつ遺伝子発現パターンが異なる不均一性を示す.この不均一性により,抗がん剤などの外部刺激に抵抗性を獲得したがん細胞が生じる.筆者らは,がん幹細胞様細胞(CSC)が発現するがん幹細胞様形質関連転写因子に着目した研究を行ってきた.これらの転写因子は腫瘍増殖や,治療抵抗性,免疫からの回避に寄与していた.また,DNAバーコード技術やCRISPR/Cas9システムを用いて,がん細胞集団におけるCSCの出現やがん幹細胞様形質関連転写因子の機能を解析し,転写因子の発現と細胞のふるまいに関して新たな知見が得られた.本稿では筆者らの最近の研究についてご紹介したい.