フランス語フランス文学研究
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Études en français
Sous l’ombre de Danton
Le patriotisme joué dans Voyage au bout de la nuit
Hinako ICHIKAWA
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2026 年 128 巻 p. 115-132

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抄録

ダントンの影のもとで

『夜の果てへの旅』における演じられる愛国心

市川 陽南子

 

 本論文は、ルイ=フェルディナン・セリーヌ『夜の果てへの旅』において、愛国心が「演じられる」ものとして描かれることを明らかにする。先行研究はセリーヌを反革命的作家と位置づけ、作品におけるそれ以上の意味を探る試みは乏しかった。本稿は、『夜の果てへの旅』におけるフランス革命への言及を単なる否定ではなく、愛国心・英雄性・ジェンダー表象を問い直す手がかりとしてとらえる。

 主人公バルダミュは、ミュジーヌやベストンブら愛国主義を強く主張する人物たちと出会う。彼らの言動には演劇的語彙が繰り返し用いられる。しかし彼らの愛国心は誠実な信念ではなく、あくまで自身の利益に基づくことも同時にうかがえる。

 この場面に先立つ兵士プランシャールの演説の中では、革命家ジョルジュ・ダントンの名が、民衆を戦場へと送り出した煽動者として登場する。そのイメージは後に登場する人物たちと呼応し、「演じられる愛国心」を予告する。

 また本稿では特にミュジーヌに注目し、ダントンとの共通点を明らかにする。しかしながら、伝統的に「男らしさ」の権化として描かれ続けたダントンと、作中で「女性らしさ」が強調されるミュジーヌは、一見すると対照的な存在である。このことに関して、セリーヌ作品では英雄的存在の「女性化」がしばしば認められる。本論ではこの点を踏まえ、二人の類似を通じて、愛国心・英雄性に付与された性差の枠組みが揺らぎ、その二元的構造が動揺する側面を示す。

 以上を通じて、本論は『夜の果てへの旅』におけるフランス革命の表象が、歴史観やジェンダー・イメージを再検討する契機となっていることを明らかにする。このことはセリーヌ作品の女性像のあり方を照らすことに加え、ダントンという歴史人物の表象にも新たな展望を開くものである。

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