抄録
演者らは、近畿中部の京阪奈丘陵周辺を対象に、主に江戸中期以降の里山利用の変遷を調査してきた。その結果、次のような実態が明らかになった。
・近接する地域でも、土壌の条件・需要の強さ・他産業とのバランスなどにより、里山の薪炭利用形態は大きく異なる。
・里山林は、常に林として維持されてきたわけではなく、商品作物の動向などと絡んで多くの一時的利用が存在した。
・換金作物であるクヌギを植林しての高度な薪炭林経営の歴史はそれほど古くない。明治中期以降、昭和30年代までの70年ほどという場合も多いようだ。
里山林は、多くの保全現場で言われるような、長期にわたって一定の管理をされてきた場所ではない。しかし、近年まで多くの動植物のすみ場所として機能して来たことも事実だ。現在の遷移の進行や松枯れといった事象をその中に位置づけてみたとき、里山の生物相の長期にわたる保全のために必要な要素は何か、改めて議論したい。