2021 年 14 巻 4 号 p. 279-286
立体音響表示は,任意の空間における音響イベントを別の空間で再現するための技術や,仮想現実感を得るための技術として位置づけられる.立体音響表示を行うために,複数のスピーカを用いる方法や,音源と外耳道内の点との間で定義される頭部伝達関数を利用する方法が用いられる.本稿では,頭部伝達関数を利用する方法について取り上げる.頭部伝達関数に関わる諸問題については,これまでに多くの研究がなされ,また,頭部伝達関数データベースの公開といった研究基盤の拡充もなされている.更に,高性能で安価なデバイスやソフトウエアの登場により,立体音響を提示できる環境がより身近なものとなってきている.そこで本稿では,頭部伝達関数を用いる立体音響技術に関して,基礎技術,応用技術,関連機器・サービスについて概説し,立体音響技術の展望について述べる.