抄録
長年にわたって,プログラム内蔵型で逐次的にアルゴリズムを実行するノイマン型デジタル計算機とは原理的に異なる新しい計算システムが模索されてきている.その候補の一つとして,複雑な実世界の問題を「複雑系で計算する」複雑系コンピューティングの基礎的な原理と,これを実用に供するための実装技術の例を示す.特に,高次元のアナログ物理カオスダイナミクスを用い,更に,脳の意識・無意識過程にヒントを得た複雑系計算装置の構成法とその応用について重点的に解説する.また,実数密度でカオス力学系に内包された不動点や系が持つフラクタル構造などを大容量アナログメモリとして活用する方法についても述べる.これらの内容は,2003 年11 月から2009 年3 月まで,独立行政法人科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業ERATO 型合原複雑数理モデルプロジェクトで行われた研究内容の一部である.