抄録
情報セキュリティの問題は,かつてはコンピュータを扱うごく限られたコミュニティの問題であったが,今では,市民生活にも多大な影響を及ぼす重要な問題になっている.実際,社会基盤の多くがコンピュータに支えられており,個人情報や機密情報の漏えい,端末や金融アカウントの乗っ取りによる不正振込など,身近な所で問題が起こり始めている.攻撃の手口も年々巧妙になってきており,問題の根底にある高度な技術の解明と有効かつ抜本的な対応策が欠かせなくなっている.このような状況の中,深い専門性を有する研究者に対しても科学技術面からの貢献が期待されており,2005年の4月には独立行政法人産業技術総合研究所においても情報セキュリティを取り扱う研究センターが設立され2012年3月末までの7年間その研究活動を行った.本稿においてその足跡を振り返ることで,今後の情報セキュリティ研究の参考にして頂ければ幸いである.