1981年7月より1983年4月にかけて成雌チンパンジー2頭に人工授精を試み, 計3回の受胎を得た。雄からの採精はケタミンによる全身麻酔下に直腸電気刺激法を用いて行なった。雌の排卵は, 初めの2例は月経周期の性皮腫脹の推移を示標に, 3例目は尿中LH濃度を簡易測定キットで定量して推定し, それぞれの授精適期を選定した。雄から採取した精液は37℃のフラン器中に約20分静置して液化させた後, 注射筒に接続した約30cm長のポリエチレン管に液状部を吸引し, 注入を行なった。雌への精液注入は, 全身麻酔下に伏臥位で腰部を挙上し, 子宮頸管内へ注入した。3例は, 最後の精液注入後それぞれ234日, 235日, 235日で分娩し, 児はいずれも正常な発育をしている。