抄録
薬物による変化と自然発生病変との鑑別を正確に行い, より精度の高い毒性評価を行うことを目的として, 毒性試験に用いられた雌雄各221匹のカニクイザルの自然発生病変について病理組織学的に検討した。肝臓及び腎臓は毒性所見が多く発現する臓器であるが, 自然発生病変もまた多く認められた。単核細胞浸潤, 肝細胞の空胞化, 尿細管の拡張, 尿細管上皮の空胞化が比較的高頻度にみられたが, これらの所見は毒性変化として認められるものに類似していた。各種臓器において褐色調の色素沈着が認められたが, その本態はヘモジデリン, 炭粉あるいはメラニンと多様であった。また, 野生で捕獲した動物であるため寄生虫による病変が多数みられ, 特に大腸と肝臓における肉芽腫が高頻度に認められた。大腸の肉芽腫では内腔に線虫の虫体を認める場合が多いのに対し, 肝臓の肉芽腫では寄生虫は認められないため, 瘢痕病変や周辺の炎症性病変のみ観察した場合毒性病変と誤認する可能性が示唆された。